「まるで人間」な表情やしぐさを再現する超リアルなヒューマノイド開発企業が目指す未来とは?
近年の技術革新と共に「まるで人間のようなロボット(ヒューマノイド)」の開発に向けた期待が高まっており、2021年にイーロン・マスク氏が率いるテスラが完全自律型ヒューマノイドロボット「テスラ・ボット」のコンセプトを発表したことも大きな話題を呼びました。そんな中、あまりのリアルさに賛否両論を呼んだヒューマノイド「Ameca」を開発したイギリスの企業・Engineered Artsの本社を取材した際のレポートを、海外メディアのThe Vergeで上級レポーターを務めるジェームズ・ヴィンセント氏が記しています。
A visit to the human factory - The Verge
https://www.theverge.com/23054881/engineered-arts-robotic-humanoid-ai-ameca-artificial-intelligence
2021年12月、Engineering Artsが開発した「Ameca」の映像がインターネット上で広まり、そのリアルさが話題を呼びました。実際にAmecaがどのようなヒューマノイドになっているのかは、以下のムービーを見るとわかります。
Ameca Interaction - YouTube
Amecaは機械部分が露出した胴体や腕、そして灰色のリアルな顔のあるヒューマノイドです。動いていない状態だと、確かに顔つきはリアルなもののロボット感の強い見た目となっていますが……
研究者が立てた指をAmecaの目の前で動かすと、Amecaはまるで人間のように微妙に表情を変えて指を視線で追い始めました。
常に指を見続けるわけではなく時にはまばたきをするなど、Amecaには人間らしいしぐさが取り入れられています。
また、研究者が指を顔に近づけると、Amecaはまるで触れられるのを嫌がるかのように体を引き……
指が鼻に触れると、今度は自身の手で指を抑えようとしました。Amecaの動画を見た人の中からは、「Amecaが手を挙げた時、怖くなりました」「確かに怖いですが、私はこれが好きでもっと見たいと思います」など賛否両論の意見が上がっています。ヴィンセント氏は、「衝撃的なのは、ロボットが私たちとの間に境界を確立したいと思うことです。皮肉なことに、これは非常に人間的な願望です」とコメントしています。
Amecaを開発したEngineering Artsのウィル・ジャクソンCEOには、「いつの日か人類を打倒するロボットを作っている」と非難するメールや、「ロボットとセックスできる日は来るのか」といった問い合わせが届いているとのこと。ジャクソンCEOはセックスロボットを作っているわけではないと強調しつつも、「誰もがヒューマノイドロボットを見たいと思っています。彼らはこれから起こるすべてのことを想像するのが大好きです」と述べ、人間にはヒューマノイドを待望する気持ちがあると主張しています。
Engineering Artsが開発するヒューマノイドは娯楽や教育用途が想定されており、研究目的の使用や博物館・空港・ショッピングモールに配置して、事前の設定に基づいて来客に応対したり、リモートの操縦者が応答したりできるとのこと。また、近い将来には滑らかな受け答えができる高度なチャットボットを、ヒューマノイドに搭載することも考えているそうです。
中世ヨーロッパでも機械仕掛けの人形は作られてきましたが、「ロボット」という言葉は1920年に劇作家のカレル・チャペックが戯曲「ロボット」の中で初めて使いました。ロボットに対する反応としては、単純にロボットを機械的性質のみで評価する人もいれば、ロボットに何かしらの精神性を投影する人もいます。ケンブリッジ大学の人類学者であるベス・シングラー氏は、自らが合理的な存在だと思っている西洋社会の人々にも、ロボットやルンバに意識や知性を見いだす傾向があると指摘しています。
ジャクソンCEOによると、Engineering Artsは「ロボットに精神性を見いだしたい人間の気持ち」を積極的に利用しているとのこと。たとえば、初期のEngineering Artsは音声認識チャットボットを人間のように見せかけるため、「人間が最後に言った文章の『あなた』と『私』を入れ替えて繰り返す」という簡単なトリックを使いました。ジャクソンCEOは、「あなたがロボットに『I love you.(私はあなたを愛しています)』と言うと、ロボットは『you love me.(あなたは私を愛しています)』と言い返します。それであなたは、『ああ神よ、このロボットは私を理解している』と思いますが、そうではなく、私がしたのは単に2つの単語を入れ替えることだけでした」と述べています。
ヴィンセント氏は実際に、イングランドの南西端に当たるファルマスという港町にあるEngineering Artsの本社を訪れました。人口約2万人という小さなファルマルの外れにあるEngineering Artsの本社はまるで職人の工房のようであり、コーディング用に置かれたマルチモニターのスタンディングデスクや、ヒューマノイドに着せるかつらや衣装が並び、エンジニアリングルームにはアルミニウムの塊を裁断する巨大な工作機械があるとのこと。また、社内には至るところに機械の手足やシリコン製の顔などが散らばっており、まるでアンドロイドが登場する海外ドラマ「ウエストワールド」の舞台裏のようだとヴィンセント氏は述べています。以下は、実際にジャクソンCEOがシリコン製の顔を触ってみせる様子です。
Engineering Artsはゼロからすべての部品を開発するわけではありませんが、シリコン製の顔やヒューマノイドのプログラミングなど、ヒューマノイドを構成するあらゆる部分に関与している点が特徴だとのこと。他にはディズニーもリアルなヒューマノイドの開発を行っていますが、ディズニーは自分たちで開発したヒューマノイドを販売しようとはしていません。
2005年に設立されたEngineering Artsは、これまでに6種ほどのヒューマノイドを製造してきましたが、最新モデルのAmecaは間違いなくこれまでで最も洗練されたヒューマノイドです。特に力を入れているのは人間らしい表情を再現するシステムであり、ジャクソンCEOは「人間の顔は巨大な帯域幅の通信ツールです。あなたは人々が認識できる物理的なインターフェースを持っています」と述べています。人間はもともと人間の顔や表情を識別する能力に優れており、人間そっくりの顔を持つAmecaからも人間と同じように表情を読み取ることができます。また、表情以外にも鎖骨の動きや視線追跡機能を搭載した眼球など、複雑な感情表現を可能にするためのあらゆる手法をEngineering Artsは取り入れているとのこと。
その結果、人がAmecaの前を通ったり話しかけたりすると、Amecaはまるで人間のようにその動きを目で追ったり声に応じて振り返ったりします。これは人間関係の始まりと同じであり、人間もAmecaに対して他の人間と同じように接するとのこと。実際に、ヴィンセント氏はAmecaの顔に手を伸ばすことを許可された際、「顔を触っては無礼ではないか」という思いがよぎったと認めています。
ジャクソンCEOは、「ヒューマノイドを作る唯一の正当な理由は、人々と交流し、友人になることです」「最高のロボット食器洗い機は正方形の箱です。それは家の中をウロウロして皿をいじっているヒューマノイドではありません」と述べ、人間らしい外見を再現する目的はコミュニケーションにあると主張。テスラが発表したテスラボットのように、人間のような見た目と人間に取って代わるような利便性をヒューマノイドに求めることは間違っているとの見解を示しました。これに関連してヴィンセント氏は、人体の効率と器用さを再現するにはエンジニアリング上の課題が多すぎるため、「幼児の身体的スキルを持つロボットよりも、チェスのグランドマスターを倒せるAIを構築する方がはるかに簡単」という、モラベックのパラドックスとして知られる問題があると指摘しています。
Engineering Artsは「意識や精神のないヒューマノイドを作っている」というスタンスの企業ですが、ジャクソンCEOは一部の人々が見ているものを故意に誤解し、Amecaに精神性を見いだすだろうと考えています。AIに対する文化的反応を研究するシングラー氏は、人々はAIやアルゴリズムに神秘性や神を見いだす傾向があると指摘し、「AIを超知的で神の領域に収まる存在だと考えるのは簡単です」とコメント。また、ヴィンセント氏もAmecaに精神があるとまでは考えなかったものの、ふとした手の動きや目を細める表情の中に、一瞬だけモーターと電子回路以上の何かを信じそうになることが確かにあると認めています。
ジャクソンCEOは、次は歩行可能なバージョンのAmecaを開発する予定だと明らかにし、ヴィンセント氏にプロトタイプの「金属性の膝」を見せたとのこと。また、ジャクソンCEOはヒューマノイド開発において人体に対する畏敬の念や驚異を実感しているそうで、「生物学的なシステムを見てそれを模倣しようとすると、私は宗教家ではありませんが、『一体なぜこんなものができたのだろう?』と考えることになるのです」と述べました。
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