サイエンス

体内を傷つけずにがんを検査・治療することができる自律型の磁気触手ロボットが誕生


イギリスの研究チームが、医者でも難しい「人間の肺」まで到達可能な自律式のヘビ型ロボットを開発したと、ロボット工学ジャーナルのSoft Roboticsで発表しました。このロボットを使えば、人間の医師では難しい肺がんやその他の肺疾患の検出・治療ができるようになる可能性があります。

Patient-Specific Magnetic Catheters for Atraumatic Autonomous Endoscopy | Soft Robotics
https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/soro.2021.0090

This snakelike robot slithers down your lungs and could spot - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2022/04/01/autonomous-snake-robot-lung-cancer/

リーズ大学の研究チームが、磁気ディスクで構成された厚さ約2mmの「磁気触手ロボット」に関する研究論文をSoft Robotics上で発表しました。研究チームは磁気触手ロボットを使って人間の肺を検査・治療できるとしていますが、使用ケースが拡大すれば、これを使って心臓や腎臓、膵臓などの他の臓器も検査できるようになる可能性が示唆されています。


同プロジェクトの主任研究者であり、リーズ大学ロボット工学課で自律システムに関する研究を進めているピエトロ・バルダストリ氏は、磁気触手ロボットについて「気味が悪いと感じるかもしれませんが、我々の目標は可能な限り侵襲性の低い方法で人体の奥深くに到達する方法を見つけることです」と、人体をなるべく傷つけることなく体内を検査するための方法として、ロボットを開発したと語りました。

研究チームによると、この磁気触手ロボットが臨床現場に登場するにはあと5~10年ほどの時間が必要になるものの、これを使えば医師が患者の肺をより高い精度で検査し、がん性組織を探す役に立つとのことです。


そもそも、医師が肺がん患者などを診察する場合、気管支鏡と呼ばれる医療機器を使って肺や気道を検査する必要があります。この気管支鏡は直径3.5~4mmほどのサイズで、患者の鼻または口から細気管支と呼ばれる肺の気道へと侵入していきます。しかし、気管支鏡の幅と剛性は、がん性組織や他の問題のある組織を探すことを阻害するため、バルダストリ氏によると「肺の一部は検査することができない」とのことです。バルダストリ氏は「既存の気管支鏡では体組織のサンプルを採取できないエリアが存在します。がんが非常に遅い段階で検出される理由はこれです」と語っています。

そういった気管支鏡の欠点を解消できるようなロボットの開発をバルダストリ氏ら研究チームは続けており、それがヘビのように体内をスルスルと移動し、がん性組織を発見することができる磁気触手ロボットです。


リーズ大学の研究チームが開発した磁気触手ロボットは、サイズが気管支鏡よりもはるかに小さく、形状を簡単に変化させることができるため、木の枝のように複雑に伸びる肺の気道網内を自在に移動することが可能。また、医師による操縦などなしで体内を動き回ることができる自律型のロボットであるため、肺疾患の検査を人間よりも正確かつ体内への損傷を少なく実現することができます。

磁気触手ロボットは、患者の体外にある磁石を取り付けたロボットアームを使って操作することになるとのこと。磁気触手ロボットは体内の気道網を動きながらマッピングを行うため、次第に自動で体内を動くことができるようになります。磁気触手ロボットは体内の目的地へ到達したのち、体組織のサンプルを採取したり、臨床治療を行ったりすることが可能です。


ジョンズホプキンス大学で生物医学工学の教授を務めるNitish V. Thakor氏は、自律型ロボットは「非常に斬新で興味深い技術」であり、特に心臓などで役立つ可能性があると指摘しています。さらに、Thakor氏は「私は未来を想像することができます。肺の完全なCATスキャンが行われ、外科医がコンピューターの前に座り、磁気触手ロボットのようなヘビ型ロボットの進行ルートをナビゲーションするというものです」と語りました。

ただし、磁気触手ロボットのような自律型のロボットが臨床医に受け入れられることになるかは別の話であるとして、「どの外科医が自身の職を失いたいと思うでしょう」とも指摘しています。

なお、リーズ大学の研究チームによると、磁気触手ロボットは死体での試験に成功しており、次は小動物でのテストが計画されています。バルダストリ氏が課題として挙げているのは「ロボットが人間の呼吸リズムに合わせる必要がある点」だそうで、他にもペースメーカーを装着している人のような磁気製品を使うことができないケースへの対応についても課題が残っているそうです。

メイヨー・クリニックの外科医であるジャナニ・ライセナウアー氏は、近年の気管支鏡検査ロボットはこれまで以上に肺のあらゆるエリアの組織サンプルを収集できるようになっていると言及。しかし、リーズ大学の磁気触手ロボットのように、肺の奥深くまで薬を届けることができるものはないため、「これを実現した小さくて操縦可能な自律システムが存在するなら、それは革命的です」と述べました。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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