サイエンス

幹細胞移植で女性のHIV治療に初成功


アメリカの研究チームが臍帯血を使った新型の幹細胞移植治療によって女性のHIV治療に成功しました。科学治療によるHIVの治療成功は史上3人目で、女性としては今回が初となります。

A Woman Is Cured of H.I.V. Using a Novel Treatment - The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/02/15/health/hiv-cure-cord-blood.html

Third person apparently cured of HIV using novel stem cell transplant | Medical research | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2022/feb/15/hiv-aids-cure-third-person-woman

Scientists have possibly cured HIV in a woman for the first time
https://www.nbcnews.com/nbc-out/out-health-and-wellness/scientists-possibly-cured-hiv-woman-first-time-rcna16196

HIV: Researchers report third case of remission after stem cell transplant using umbilical cord blood - CNN
https://edition.cnn.com/2022/02/15/health/hiv-third-person-remission/index.html

白血病に関する幹細胞移植治療は骨髄を用いる手法が一般的です。しかし、骨髄移植治療を行うには、ヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる細胞の型がドナーと患者で厳密に一致することが不可欠です。

今回HIVの寛解に成功した匿名の患者は、ニューヨーク在住の女性で複数の人種の血が混じっていることが明かされています。報道によると、この女性はHIVと白血病という2つの重病を同時に患っていたこと、そして「骨髄移植のドナーのほとんどが白人である」という理由から、へその緒の中に含まれる胎児側の血液である「臍帯血」由来の幹細胞移植治療が施されることとなりました。


臍帯血由来の幹細胞移植治療は危険性が高いものの、ドナーと患者の間でHLAが厳密に一致しなくても適用できるという点が大きな特徴。今回の女性は、HIVと白血病を同時に治療するために「HIV耐性を持つドナー」を探し、さらに「幹細胞移植で白血病を治療する」という二重のハードルが求められましたが、第一のハードルであるHIV耐性を持つドナーについては、骨髄バンクよりも臍帯血バンクのほうがデータベースがはるかに充実していたことが大きく役立ちました。


この女性が前述の幹細胞移植治療を受けたのは2017年8月のことで、術後37カ月において経過良好という理由から抗レトロウイルス療法を中止。それから14カ月が経過しましたが、血液検査においてHIVの兆候は一切見られないとのことで、今回改めて「寛解」と報じられました。

今回のケースは「女性」と「複数の人種が混じっている」という2点が特に意義深いと報じられています。アメリカはHIV感染者においてアフリカ系アメリカ人が約40%、ヒスパニック系アメリカ人が約25%を占めているにもかかわらず、ドナーとして登録されている人種のほとんどが白人。また、世界のHIV感染者の約半数が女性ですが、女性の治験参加者はわずか11%と、HIVの進行には男女差があると考えられているにもかかわらず、女性のHIVに関する研究は著しく遅れを見せているという状況でした。

また、術後の経過が極めて良好だった点も特筆されています。世界初のHIV完治者となったティモシー・レイ・ブラウン氏や2番目のHIV完治者となった男性は術後にさまざまな副作用が生じたとされており、ブラウン氏は術後に半死半生の状態に陥り、2番目のHIV完治者は移植手術から1年後には体重が30kg近く落ち、難聴になり、複数の感染症を患ったと言われています。一方、今回の女性は対照的に、術後わずか17日後には退院していたとのこと。

今回のケースは成功と報じられていますが、臍帯血を使った幹細胞移植治療の致死率は20%、成功しても副作用を複数引き起こす可能性があると主張する専門家もおり、「できるならば避けるべき治療法」とのこと。そのため、感染症に関するアメリカ最高の権威として名高い国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は「この人はたまたま幹細胞移植を必要とする基礎疾患を持っていたためこうした治療法が採られたのであって、今回の治療がHIVと共に生きている3600万人に適用できるものだと考えて欲しくありません」「この手法が広く普及するというのは現実的ではありません」とコメントしています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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