子どもが集中するとつい舌が出てしまうのはなぜ?
子育て経験がある人や身近に小さな子どもがいる人の中には、熱心に絵を描いたりおもちゃで遊んだりしている子どもが舌を出しているのを見たことがある人も少なくないはず。また、大人でも「繊細な作業をしている時は舌を上顎に押しつけるようにしている」という人もいます。このように、手作業と舌の動きに関連性が見られる理由について、専門家が解説しました。
Why do we stick out our tongues when we're concentrating? | Live Science
https://www.livescience.com/why-stick-out-tongues-concentration
ロンドン大学バークベック校で比較認知科学を研究しているジリアン・フォレスター教授によると、舌が出てしまう現象は意識を集中させているかどうかよりも、「何をしているか」に左右されるとのこと。同教授は、科学系ニュースサイトのLive Scienceに対して「人が手の細かい動きを制御するような繊細な動作をしていると舌が出てしまうのは、実験でも確かめられています」とコメントしました。
一説には、細かい作業をしていると舌が出てしまうのは「運動オーバーフロー」という現象が理由ではないかと言われています。道具の使用と言語能力の関係について調べた2019年の研究によると、言語をつかさどる脳の領域と、細かい作業や道具の使用をつかさどる領域は重なっているとのこと。つまり、手作業に関連したニューロンの刺激が、発言に関連したニューロンにオーバーフローした結果、手作業をしている時につい口や舌が動いてしまうのではないかというのが、「運動オーバーフロー」のメカニズムです。
手と口が連動していることを示す有力な研究は、他にもあります。被験者らに口を開けながら手で物をつかんでもらう実験を行った2001年の研究によると、大きな物を握る時は口が大きく開かれ、逆に小さな物をつかむ時は口も小さくなったとのこと。また、フォレスター教授が主導した2015年の研究では、4歳の子どもに繊細な作業をさせると、子どもは口から舌を突き出したり、口の右側に舌を動かしたりしていたことが分かりました。舌が右側に動いてしまことが多いのは、一般的な利き手である右手が脳の左半分で制御されているからではないかと、フォレスター教授らは推測しています。また、言葉をつかさどる言語中枢も、多くの場合左脳にあります。
口から舌が出てしまうのは主に子どもに見られる現象ですが、これは「大人は仕事をするときにいちいち舌を出さないことを学習したから」とのこと。
手と舌が連動してしまうのは、人類が言語を発達させたプロセスが関係しているという説もあります。フォレスター教授によると、類人猿は主に手の動きでコミュニケーションを取っているとのこと。同様に、初期の人類も主に手で意思疎通していましたが、道具を持つようになって手がふさがった結果、口と舌で声を出してコミュニケーションをするようになったと考えられています。
フォレスター教授は、「私たちが話すときに身ぶり手ぶりが多いのも、視覚が主要な感覚器官なのも、私たちのコミュニケーションが手から口へと移行したからなのかもしれません。しかし、集中している時に舌が出てしまうメカニズムについての私たちの研究は、まだ理論の段階です。それが進化の遺物なのか、脳の中で刺激がオーバーフローしてしまうからなのかは、なんとも言えません」と話しました。
・関連記事
なぜ子どもには「遊び」が必要なのか? - GIGAZINE
人間の脳を他の霊長類よりも発達させている遺伝子が特定される - GIGAZINE
アザラシが水中で「拍手」してコミュニケーションを取ることが判明 - GIGAZINE
類人猿も「こんにちは」「さようなら」とコミュニケーションの開始・終了を合図することが判明 - GIGAZINE
ロボットハンドを意識だけで動かす実験により「意識とは何なのか?」の解明を目指す - GIGAZINE
・関連コンテンツ