サイエンス

脳は眠っていても「知っている人の声と知らない人の声」を判別できる可能性


近年の睡眠科学の発達により、人間の脳は寝ている間でも聴覚刺激を通じて周囲の状況を監視していることがわかっています。その一方で、同居人の声や雨音といった無害な音でいちいち起きていては十分な睡眠がとれないため、脳は何かしらの方法で「起きるべき音」と「起きなくてもいい音」を識別していると考えられています。オーストリアやスイスの研究チームが行った実験からは、「眠っている時の脳は『知っている人の声』と『知らない人の声』を判別している」という可能性が示されました。

The brain selectively tunes to unfamiliar voices during sleep | Journal of Neuroscience
https://www.jneurosci.org/content/early/2022/01/06/JNEUROSCI.2524-20.2021

How the brain tunes in to unfamiliar voices while you're sleeping – and why it matters
https://theconversation.com/how-the-brain-tunes-in-to-unfamiliar-voices-while-youre-sleeping-and-why-it-matters-175018

オーストリア・ザルツブルク大学の研究者が率いる研究チームは、17人の被験者を募集して実験室内で一晩寝てもらい、睡眠時の脳波を記録する実験を行いました。研究チームはこの実験で、眠っている被験者を起こさない程度の音量で繰り返しさまざまな音声データを再生しました。

再生された音声データは、「被験者の名前やその他の名前を読み上げる声」が記録されたものでした。名前を読み上げた声はさまざまであり、中には被験者の親やパートナーといった身近な人の声もあれば、聞き慣れない他人の声も含まれていたとのこと。


聞き慣れた人の声と聞き慣れない人の声に対する脳の反応を分析した研究チームは、声を聞き慣れている程度に応じて「K複合波」と「マイクロ覚醒」の反応が変わることを発見しました。K複合波は睡眠時に見られる脳波の一種であり、知覚した外部刺激が無害である可能性が高い時に生じ、覚醒するのを妨げる役目があると考えられています。

記録の分析結果から、聞き慣れない声を聞いた場合は聞き慣れた声を聞いた場合と比較して、より多くのK複合波が発生することがわかりました。この結果について研究チームは、聞き慣れない声は人間を覚醒させる可能性が高いため、脳は体が覚醒するのを避けるためにより多くのK複合波を発している可能性があると主張しています。興味深いことに、聞き慣れた声と聞き慣れない声におけるK複合波の差は、夜の後半になるにつれて消えていったとのこと。これは、声が安全であることを脳が学習した結果の可能性があるそうです。

また、聞き慣れない声は聞き慣れた声と比較して、より多くのマイクロ覚醒も引き起こすことがわかりました。マイクロ覚醒は覚醒状態と睡眠状態が混ざった脳波として現れる活動で、数秒間ほど続くものの、通常は人が目を覚ますには至らないとのこと。現時点では、マイクロ覚醒の機能については判明していないそうですが、環境からの情報を処理して有害かどうかを判断する役割を果たす可能性もあると指摘されています。


今回の研究は小規模なものでしたが、「人間の脳は深い眠りに落ちた時でも周囲の出来事を監視し、情報を受け取ると危険かどうか判断している」という説を補強する証拠を提供するものです。声が聞き慣れないものであった場合は危険を知らせる手がかりになる一方、聞き慣れた声は安全であるとみなされるという傾向は、進化的な利点としても理解しやすいと研究チームは指摘。しかし、聞き慣れない声に応じてK複合波やマイクロ覚醒が増加するからといって、「脳が危険かどうかを判断している」と証明することは困難だとのこと。

ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校で心理学講師を務めるJakke Tamminen氏は、「ホテルの部屋などの新しい環境でなかなか寝付けないのであれば、あなたはもうその理由を知っています。片目を開けて眠るアヒルのように、あなたの眠っている脳は新しい環境に慣れるのに忙しく、いつもより多くのK複合波やマイクロ覚醒が発生しているのです。しかし、同時に環境について学習しており、すぐに適応できるようになります。脳を助けるためにポッドキャストやテレビ番組の停止ボタンを押し、静寂の中で安心しながら眠りに就きましょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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