サイエンス

「健康のためにおしっこを飲む」ことは本当にメリットがあるのか?


飲尿療法」とは自分が排せつした尿を飲むという民間療法であり、さまざまな健康効果があるとして古くから伝わっています。今日でも一部の著名人やインフルエンサーが健康のために尿を飲んでいますが、果たして尿を飲むことにメリットがあるのか、あるいはリスクが大きいのかといった疑問について、薬剤師でありイギリスのキングストン大学で上級講師を務めるディパ・カムダー氏が解説しました。

Drinking pee to improve health is an ancient practice – but the risks outweigh the evidence
https://theconversation.com/drinking-pee-to-improve-health-is-an-ancient-practice-but-the-risks-outweigh-the-evidence-253353


飲尿療法の実践者としては、「ちびまる子ちゃん」の作者であるさくらももこ氏や「湯遊ワンダーランド」の作者であるまんきつ(旧まんしゅううきつこ)氏、ニュースキャスターの古舘伊知郎氏、などが知られています。

海外でも、メキシコのプロボクサーであるファン・マヌエル・マルケスは2009年にフロイド・メイウェザー・ジュニアとの対戦前にトレーニングの一環として飲尿していたほか、元インド首相のモラルジー・デーサーイー氏も長寿の秘密は「1日グラス1杯の尿」だと主張していました

カムダー氏によると、人々は数千年にわたって自分や他人の尿を薬として飲んできたとのことで、実際に飲尿療法に関するほとんどの主張は個人の逸話や古い文書に基づいたものです。インドのアーユルヴェーダ医学では、尿はぜん息・アレルギー・消化不良・しわ・がんなどの治療に用いられており、ローマの詩人カトゥルスも「尿が歯を白くする」と信じていました。

その後も飲尿療法は人々の間で脈々と受け継がれており、1945年にはイギリスの自然療法医ジョン・アームストロングが「生命の水: 奇跡の尿療法」という本を刊行したほか、日本でもたびたび飲尿療法関する本が出版されています。また、ナイジェリアでは小児の発作の治療に尿を用いる事例が報告されているほか、中国にも尿療法協会が存在するとのこと。


そもそも尿は身体の老廃物を取り除くために作られた液体であり、主に水(約95%)と体内のタンパク質分解後に肝臓で作られる尿素(約2%)、筋肉のエネルギー放出プロセスの副産物であるクレアチニン、塩などの老廃物で構成されています。カムダー氏は、「尿がただの排せつ物なら、それを飲むことがどうして有益なのでしょう?」と指摘しています。

飲尿療法の支持者らは、尿には腎臓が取り除いた過剰なビタミンやミネラルが含まれており、飲尿によってこれらを取り込むことで栄養分をリサイクルできると主張しています。確かにその側面はあるものの、コップ1杯の尿に含まれる栄養素が有益な量に達している可能性は低く、普通のビタミンサプリメントなどの方が効果的な可能性があるとのこと。


また、中には尿中の抗体が免疫システムを強化してくれるため、飲尿がアレルギー反応の予防や自己免疫疾患の治療に役立つと考える支持者もいます。他にも、飲尿を継続することで体内の毒素が除去され、全体的な健康状態が改善し、尿と血液がきれいになると考える人々もいます。しかし、これらの主張を裏付ける科学的証拠はないとカムダー氏は述べています。

一部のソーシャルメディアインフルエンサーは、尿には治癒特性があるため飲んだり皮膚に塗ったりすることで、ニキビや感染症から防ぐことができると主張しています。確かに尿素には保水作用があり、スキンケア製品にも尿素が使われることがありますが、尿に含まれる程度の尿素濃度では皮膚に影響を及ぼすのに十分ではないそうです。


飲尿療法の支持者らは、排せつしたばかりの尿は無菌であると主張していますが、健康な人の尿にも低レベルの細菌が含まれているという研究結果が報告されており、尿が体外に出る過程でさらに汚染される可能性があります。そのため、尿を飲むと細菌や毒素が消化管に侵入し、胃の感染症などの病気を引き起こすリスクがあります。

また、そもそも尿は腎臓でろ過された物質を排せつする液体であり、それを再び取り込むことで腎臓に余分な負担がかかります。尿を飲んで取り込んだ物質を尿として排せつするにはさらに多くの水が必要であり、脱水が加速する可能性もあるとのこと。加えて、ペニシリン系の抗生物質や心臓病治療薬といった薬の一部も尿中に排せつされていますが、これを再び取り込むことで体内の薬物濃度が高まり、毒性を持つ可能性もあるそうです。

カムダー氏は、「主流の医学会は科学的根拠に欠けるとして、尿療法を支持していません。少量の飲尿が有害である可能性は低いですが、目に見える健康効果を求めるのであれば、科学的根拠がある他の療法を選ぶべきかもしれません」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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