ストリートファイターIIをベースに当時のアーケード基板「CPS-1」の何が優れていたのかをエンジニアが解説
1991年にアーケードゲームとして登場したカプコンの対戦型格闘ゲーム「ストリートファイターII」について研究してきたというソフトウェアエンジニアのファビアン・サングラード氏が、アーケード版ストリートファイターIIで使用された「CPシステム(CPS-1)」が技術的にどう優れていたのかについて解説しています。
Street Fighter II, paper trails
https://fabiensanglard.net/sf2_sheets/index.html
1988年にカプコンがリリースしたアーケードゲーム「ロストワールド」と同時に登場したアーケードゲーム用基板が「CPS-1」です。ストリートファイターIIもこのCPS-1でリリースされました。
CPS-1はそれまでのアーケード筐体と比べて革新的なグラフィックレンダリング能力を有しており、その秘訣のひとつが「レイヤーに対応している点」でした。CPS-1では16×16ドットの「タイル」(いわゆるスプライト)をレイヤーとして出力可能で、ストリートファイターIIではこのタイルの組み合わせでキャラクターを表現しています。
リュウの勝利ポーズは29タイル
サガットのタイガーアッパーカットは30タイル
エドモンド本田のジャンプポーズは45タイル
春麗の構えポーズは25タイル
CPS-1ではこのタイルを水平あるいは垂直方向に反転させたり色味を変更したりと基本的な操作はできるものの、回転させたり拡大縮小したりすることはできません。ただし、1フレームごとに表示できるタイルの数は膨大で、サングラード氏によると「1フレームあたり表示できるタイルの数は最大256枚と報告されている」そうです。
同じCPS-1でリリースされたカプコンのアーケードゲームである「パニッシャー」には、80タイルで表現される巨大なボスキャラクター「キングピン」も登場します。
CPS-1が非常に優れたグラフィック能力を有していたことについて、サングラード氏は「グラフィッカーにとって祝福であったと同時に、プロジェクトマネージャーにとっては問題でもありました」と指摘しています。当時はROMチップが非常に高価だったため、ゲームの開発にはそれぞれROM予算が割り当てられていたそうです。なお、グラフィッカーチームが使用できるタイルの数はROMサイズ/タイルサイズで決められていた模様。
CPS-1は「SCR1」「SCR2」「SCR3」「OBJ」という4つのレイヤーで動作しており、「OBJ」がキャラクターを表現するためのレイヤーで、残りは背景や前景を表現するためのレイヤーです。ストリートファイターIIの場合、ROM予算が6MiBで、全体の75%に相当する4.6MiBがOBJに割り当てられています。以下のグラフが各レイヤーに割り当てられたメモリの割合を表したもの。
当時のカプコンはCPS-1を利用するアーケードゲームでは、使用できるグラフィックを紙のシートで管理しており、ストリートファイターIIの4.6MiBという容量の場合、144枚のシートが利用できる計算となるそうです。つまり、144枚のシートで全キャラクターを表現しなければいけないというわけ。
以下のグラフは各キャラクターのシート使用枚数をまとめたもので、最も多くのシートを使用したキャラクターが「ZAN(ザンギエフ)」で19枚。以下、「HON(エドモンド本田)」が15枚、「BLA(ブランカ)」が15枚、「DHA(ダルシム)」が14枚、「RYU(リュウ)」が13.5枚、「GUI(ガイル)」が11枚、「CHU(春麗)」が10枚のシートを使用。このほか、ベガが9枚、サガットが6枚、バイソンが6枚、バルログが6枚、ケンが3枚のシートを使用します。
シート1枚は以下に縦16×横16のマス目が用意されており、1マス=1タイルとなります。
ケンがわずか3枚のシートで表現されているのは、ケンがリュウのタイルの多くを流用できるように設計されているため。そのため、リュウとケンは服と顔の色以外はすべて同じ色が採用されています。
例えばケンの勝利ポーズはリュウの勝利ポーズの白色部分を赤色に変換し、顔部分をケンに差し替えることで出力されています。
シートの節約はかなり細かく行われており、例えばサガットが正面を向いて腕組しているポーズ(シート下部中央)の場合、左足は右足を反転することで表現できるため、左脚のタイルだけは存在しません。
サングラード氏はCPS-1でのゲーム開発に取り組んできたゲームクリエイターと話しをするためにコンタクトを取ったそうですが、そのことごとくが失敗に終わったため、CPS-1がどのようにプログラミングされたかのより詳細な部分を知ることはできなかったとしています。それでもサングラード氏はまだインタビューの機会をあきらめていないようで、「CPS-1でのゲーム開発経験がある人本人、あるいはそういった人と連絡を取ることができるという場合は、私に連絡してください!」と記しています。
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