うつ病患者の脳では記憶や学習に関連する領域が減少しているとの研究結果

以前からうつ病がアルツハイマー病のリスク要因であることが知られていましたが、うつ病と認知機能低下の相互作用はよくわかっていません。うつ病を患う中高年を対象にした新たな研究では、うつ病患者の脳では記憶や学習に関わる海馬の特定領域の体積が減少していることが判明しました。
Depression and hippocampal subfield volume in older adults | Translational Psychiatry
https://www.nature.com/articles/s41398-026-04223-y
Depression linked to smaller volume in key memory region of older adults
https://keck.usc.edu/news/depression-linked-to-smaller-volume-in-key-memory-region-of-older-adults/
A Specific Part of Your Brain Seems to Shrink If You Have Depression : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/a-crucial-part-of-the-brains-memory-center-seems-to-shrink-in-people-with-depression
海馬は記憶の形成や想起において重要な役割を果たす脳の部位であり、それぞれ異なる機能を持つ複数の亜領域で構成されています。これらの亜領域は加齢やうつ病、神経変性疾患などに対して異なる反応を示す可能性があり、海馬全体だけを見ていると疾患との関連性が見過ごされてしまうおそれがあります。
今回、南カリフォルニア大学の研究チームは高解像度MRIスキャンを用いて、「CA1」「海馬台」「CA23DG(CA2・CA3・歯状回を含む複合領域)」という海馬を構成する3つの領域を測定しました。このうちCA1は脳が新しい情報を認識して既知の情報と結びつけるのを助ける領域で、海馬台は脳の他の部分へ情報伝達する主要経路、CA23DGは記憶の想起や再構築において重要な領域です。
論文の筆頭著者で、南カリフォルニア大学神経科学大学院プログラムの博士課程学生であるダニエル・ルー氏は、「うつ病は長らくアルツハイマー病の発症リスク増加と関連付けられてきましたが、両者の生物学的つながりはまだ完全には解明されていません。私たちは海馬の個々の領域を詳しく調べることで、高齢者のうつ病に特に敏感な可能性がある領域を特定しました」と述べています。

研究では、認知機能が正常な50~90歳の被験者2009人を対象にMRIスキャンを実施しました。被験者のうち630人は現在の症状および過去の診断に基づいてうつ病だと分類され、残りの1379人はうつ病ではありませんでした。被験者らの認知機能はいずれも正常だったため、研究チームは記憶喪失や認知機能低下が現れる前に起きる脳の変化を測定できたとのこと。
年齢・性別・ボディマス指数(BMI)・身体活動レベルなどの要因を考慮に入れて分析したところ、うつ病患者はそうでない被験者と比較して、CA23DGの体積が小さいことが明らかになりました。一方、うつ病患者におけるCA1や海馬台の減少はみられませんでした。
この傾向は、アルツハイマー病のリスク因子であるアミロイド前駆体タンパク質やタウタンパク質、APOE遺伝子の変異といった要因を考慮しても、ほとんど変化しませんでした。これは、既知のアルツハイマー病リスク因子がCA23DGの減少には関与しておらず、うつ病とCA23DGは独自の経路で関連していることを示唆しています。
ところが、研究チームが抗うつ薬の使用を考慮に入れたところ、抗うつ薬を服用していた被験者ではCA23DGだけでなくCA1の体積も小さいことがわかりました。一般に、抗うつ薬はうつ病の有害な生理的影響を軽減するものと考えられているため、この結果は直感に反するように思えます。研究チームはこの結果について、うつ病の症状が重い人ほど抗うつ薬を処方される可能性が高く、結果として海馬への影響も大きかったのではないかと推測しています。
同様に研究チームは、たとえうつ病の症状が軽度でありコントロールされていたとしてもうつ病を患っている期間が長い人は、うつ病自体の症状は重いものの患い始めてから間もない人と比べて、うつ病とCA23DGの体積減少との関連性が高いことを発見しました。この傾向は、うつ病の重症度だけでなく持続期間が、海馬の変化に影響していることを示唆するものです。

うつ病が患者の海馬にこれらの変化を引き起こすメカニズムについて知るには、さらに多くの研究が必要です。今回の研究はあくまで相関関係を示しているのに過ぎず、「うつ病や抗うつ薬がCA23DGの体積減少を引き起こした」という因果関係は証明されていません。
ルー氏は、「今回の研究では薬の潜在的な効果と、薬が処方されるより重度のうつ病自体が引き起こす影響を切り離すことはできません。これらの関係性を理解するには、治療前後の患者を追跡調査する長期的な研究が不可欠です。今回の結果は、処方薬を変更したり中止したりする理由として解釈されるべきではありません」と注意を呼びかけました。
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