「100年に1度の経済危機」を生き延びることができるのは誰か?
海外で商品を販売したい企業と現地の販売会社を仲介する事業者をフォワーダーと呼びます。物流フォワーダーのスタートアップ「フレックスポート」の共同創業者でありCEOのライアン・ピーターセン氏が、物流での経験と目線から、「現代のサプライチェーンのボトルネックとなっているもの」について論じています。
What caused all the supply chain bottlenecks? Modern finance with its obsession with "Return on Equity."
— Ryan Petersen (@typesfast) October 28, 2021
ピーターセン氏はアメリカ・カリフォルニア州ロング・ビーチの抱えている問題をTwitterの力で解決したとして、大きな注目を集めた人物。ある時、ピーターセン氏がロング・ビーチとロサンゼルスの港の状況を把握すべくボートで見回っていたところ、70もの巨大なコンテナ船が港にいかりを下ろし、何日も荷下ろしを待っている状態であることに気づきました。その後、この理由はドックが混雑しすぎてトラックが空のコンテナを返却できず、運転手が荷物の入ったコンテナを取りにいけないことにあることが判明しました。
The real story behind 'tweetstorm that saves Christmas' - Los Angeles Times
https://www.latimes.com/business/technology/story/2021-10-28/the-real-story-behind-a-tech-founders-tweetstorm-that-saved-christmas
ピーターセン氏が上記の状況をTwitterに投稿すると、Coinbaseの最高経営責任者であるブライアン・アームストロング氏や、ヘリテージ財団のチャーメイン・ヨエスト氏が反応。投稿はまたたく間に広まり、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏のもとへと届きました。ピーターセン氏は「コンテナ積み上げの高さ制限を緩和すること」「予備のトラックを導入すること」「新たな保管場所を設けること」といった助言を市に行い、実際にロサンゼルス市はいくつかの対策を実施。この件は1つのTwitter投稿が実際に政治を動かしたとして大きな注目を集めました。
そんなピーターセン氏が新たに、Twitterで「サプライチェーンのボトルネックとなっているもの」について論じています。
ピーターセン氏は、現代の企業や金融が自己資本利益率(ROE)に依存していることを指摘。ROEは自己資本(純資産)からどれほどの利益が生み出されたのかを示す数字ですが、多くのCEOは優れたROEを示すために会社のほぼ全てを使ってしまっているとピーターセン氏は主張しています。このため企業に余剰が生まれず、戦略的に備蓄したり、研究開発に当てる資金を作り出したりといったことが不可能になっているとのこと。短期的なROEの改善に目が向けられたばかりに、経済全体から「緩衝材」が取り除かれてしまったとピーターセン氏は述べています。
過去100年で人々の需要は最高潮に達しており、この需要の嵐にインフラは追いついていません。物流企業に余剰がないため、トラックに連結させて運送に利用する追加のシャーシやコンテナ、倉庫、保管場所を用意できないとのこと。またブランドは余分な在庫が持てず、製造業者は余分な材料やコンポーネントを持っていません。加えて自分に関心を払わない企業に対して忠誠心を持つ人も少ないため、需要が急増した際に人員を集めることも難しい状態となっています。
企業はより大きな利益とROEを示して株価を引き上げるためにFIFO(先入れ先出し)やLIFO(後入れ先出し)を利用しますが、これらは価格上昇が起こった際のコストを考慮していない、とピーターセン氏。補充にかかったコストを加味するためにはNIFO(次入れ先出し法)が適しているとピーターセン氏は述べており、会計手法の選択により、上場企業の四半期収益報告書の多くが「ごまかし」に満ちていると指摘しました。
「うまく運営されているビジネスの多くは、税金を少なくするために会計上の利益を小さくし、キャッシュを開放して価値創造に対して再投資を行います。現在、多くの上場企業は反対のことを行っており、利益を誇張してウォール街からさらなる資金と称賛を得ようとしています」とピーターセン氏は主張。このような問題から、「経済の大災害」が起こった時に生き残れるのは戦略的に固定資産への備蓄を行い、従業員や才能に投資して信頼を得る企業、主に家族経営の企業や創業者主導の企業になるとの考えを示しました。
アメリカではキャピタル・ゲイン課税の税率を引き上げることが検討されています。これが実現された場合、雇われのCEOはさらに会社の多くを切り売りする必要に駆られ、最終的にビジネスを制御できなくなる可能性があります。このような事態を避け、サプライチェーンの破綻という経済危機を切り抜けられるのは、「緩衝材」を持った創業者主導の企業だとピーターセン氏は述べました。
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