90歳のノーベル賞受賞者が医師の助けで自ら命を絶ったことが判明、「私は10代の頃から人生最後の数年間の悲惨さと屈辱は無用だと信じてきました」とメールに残す

by Buster Benson
2024年3月27日に90歳で亡くなった心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマン氏について、死因が自殺だったことが1年越しに明らかになりました。ウォール・ストリート・ジャーナルが詳細を報じています。
The Last Decision of Daniel Kahneman, the World’s Leading Thinker on Decisions - WSJ
https://www.wsj.com/arts-culture/books/daniel-kahneman-assisted-suicide-9fb16124
カーネマン氏はイスラエル系アメリカ人で、心理学者であるエイモス・トベルスキー氏との共同研究で有名です。特に、不確実な出来事に対する一部の人間の判断がヒューリスティック(経験則)によって左右され、予測可能なバイアス(偏り)を生み出すことを示した理論と、人々は利益を得ることよりも損失を回避する欲求の方が強く、たとえ得られる結果が同じだとしても目先のリスクを回避しようとする傾向にあると論じたプロスペクト理論でよく知られており、プロスペクト理論によりカーネマン氏は2002年のノーベル経済学賞を受賞しています。
【訃報】心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマン氏が90歳で死去、行動経済学の発展に貢献しノーベル経済学賞を受賞 - GIGAZINE

by nrkbeta
カーネマン氏は2024年に90歳で亡くなったことが知られていましたが、新たに、スイスの自殺ほう助施設にて、医師の助けを受けて自ら命を絶つことを選択していたことがウォール・ストリート・ジャーナルのエッセイから明らかになりました。このことは親しい友人と家族だけにしか知らされていませんでした。
カーネマン氏と親交があったウォール・ストリート・ジャーナルのジェイソン・ツバイク氏によると、カーネマン氏は3月22日ごろから最も親しい人に個人的なメールを送り始め、死の前日に家族を残してスイスへ飛び立ったとのこと。
メールには、「これは友人たちに送る別れの手紙です。3月27日に私の人生が終わります」「私は10代の頃から、人生最後の数年間の悲惨さと屈辱は無用だと信じており、その信念に基づいて行動しています」「私はまだ元気で、人生の多くのことを楽しんでいます。しかし、腎臓は限界にきており、精神障害の頻度も増えています。そろそろ潮時です」「私は自分の選択を恥じてはいませんが、それを公言することにも興味がありません。残された家族は詳細な死因を可能な限り公開しませんので、あなたも数日間はこの話を避けてください」「決断してわかったのは、私は存在しなくなることを恐れていないということ、そして死とは眠りについて目覚めないことだと考えているということです。最後の期間は、他人に与えた苦痛を目の当たりにしたことを除けば、つらくはありませんでした。ですから、もしあなたが私のことを気の毒に思っていたとしても、そんなことはないんです」「私の人生を良いものにしてくれてありがとう」などと記されていたそうです。

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生前のカーネマン氏を知る人によると、氏は人生の最後のときを楽しんでいるように見え、とても自死を選ぶようには見えなかったとのこと。ただ、カーネマン氏は以前から「ピーク・エンドの法則」を提唱し、「ある経験をつらいと感じるか、楽しいと感じるかは、感情のピーク時と最後の瞬間により決まる」との考えを持っていたため、カーネマン氏は人生を成り行きに任せるのではなく、ハッピーエンドにすることを目指したのではないか、との見方があるといいます。
また、カーネマン氏の妻アン・トレイスマン氏が2018年に亡くなっていたことも関係している可能性があるとツバイク氏は指摘しています。トレイスマン死は血管性認知症を数年間患った後、脳卒中で亡くなっていましたが、彼女の病気はカーネマン氏にとってつらいものでした。2015年7月にはカーネマン氏からツバイク氏宛に「アンの健康にとても気を取られていて、まったくうまくいっていません」とメッセージが送られてきたそうです。
ツバイク氏は「私が思うに、カーネマン氏が何よりも望んだのは衰えを避けることで、自分の意思で死を迎えたいと思っていたのでしょう」と述べました。
なお、2024年3月時点で、カーネマン氏が「私の2番目に重要な職業上の友人」と呼ぶ経済学者、リチャード・セイラー氏は「カーネマン氏は独自の心理的思想がありました。常に最悪の事態が起こるだろうと考える熱心な悲観主義者でしたが、彼は『人生の結果にそれほど失望しなくなるので、これは合理的な考え方』と主張していました。自称楽観主義者の私は心配しなくても大丈夫だと説得しましたが無駄でした。彼が90歳までそれなりに健康に生きたという事実が私の正しさを証明するはずでしたが、結局は彼の考え方を変えられませんでした」と述べています。当時セイラー氏が死因を知っていたかは定かではありません。
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in Posted by log1p_kr
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