オーロラから音が聞こえるというウワサは科学的に正しいのか?
幻想的な光が特徴的なオーロラから「音が聞こえる」という事例が、数は少ないながらも地元住民や科学者らから報告されています。いまだ真偽が分からずに論争の的となっている「オーロラの音」の実体について、ケンブリッジ大学の科学哲学者であるフィオナ・アメリー氏が解説しています。
The disputed sound of the aurora borealis: sensing liminal noise during the First and Second International Polar Years, 1882–3 and 1932–3 | Notes and Records: the Royal Society Journal of the History of Science
https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rsnr.2021.0031
Do the northern lights make sounds that you can hear?
https://theconversation.com/do-the-northern-lights-make-sounds-that-you-can-hear-168032
北極や南極周辺で観測されるオーロラは、太陽から放出されたプラズマが地球の磁場やガス分子と相互作用して起きる発光現象です。このオーロラから音が聞こえてくるという報告は歴史的に何件か行われており、その音は「パチパチという音」「うなり声のような音」「絹鳴りのような音」「2枚の板が打ち合わさったような音」などと形容されています。また、フィンランドの音響学者であるカレルボ・レイン氏は、2016年に「地上70メートルでオーロラの音を録音した」と主張し、研究論文としてまとめ上げています。レイン氏が録音したというオーロラの音は以下の動画で確認できます。
Clap Sounds of Northern Lights? - Sound Source 70m Above Ground Level - YouTube
オーロラの音については、20世紀初頭からその真偽をめぐって活発な議論が行われてきました。音を聞いたという事例はオーロラが観測される北極圏のシェトランド諸島やカナダ北部、ノルウェーなどから報告されていましたが、実際に音を聞いたという西洋の探検家がほとんどいなかったことから、科学界においてその報告は疑念を持たれていました。
by Northern Lights Graffiti
当時、地表の比較的低い位置で発生したオーロラのみが可聴音を発することができると考えられていたため、報告の信頼性はオーロラの高度測定に置かれていました。しかし、1932年から1933年にかけて開催された第2回国際極年において、オーロラは一般的に地上100km付近で発生し、地上80km未満ではめったに発生しないという研究結果が報告されました。人間は80km以上先で発生した音を聞くことができないため、この報告から「オーロラから音が聞こえるという事実は疑わしいものである」という認識が広まりました。
この報告により、物理学者はオーロラの音を「民話、あるいは心理的な錯覚」「流れ星を見た時に『シュー』という幻聴が聞こえるようなもの」とみなすようになりました。しかし、その後現在までにオーロラの音を科学的に実証しようとする研究がいくつか行われたことで、オーロラの音は幻聴などではないとみなされるようになったとのこと。
1973年、空軍ケンブリッジ研究所のサミュエル・シルバーマン氏らは、それまでに報告されてきた「オーロラの音」に関する事例を再検討。シルバーマン氏らはその中で、1923年にカナダの天文学者であるクラレンス・チャント氏の(PDFファイル)研究を取り上げています。チャント氏は「オーロラが地球の磁場を変化させて、かなりの距離にわたって空気中の電界に影響を与え、地表近くにまで帯電による音を発生させる」と報告しており、シルバーマン氏らはこのような電界を「太陽フレア時の超高温ガスから放射される硬X線によるイオン化に起因する空間電荷によって生成される可能性が最も高く、これがオーロラの音と認識されている」としています。
アメリー氏は「シルバーマン氏らが取り上げたチャント氏の理論は現代の科学者に広く受け入れられているが、オーロラの音の発生原因にはまだ議論の余地がある。確かなことは、オーロラが発する音は幻聴などではなく、人間の耳にはっきり聞こえる音を出すということだ」と述べました。
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