サイエンス

肥満の研究はいかにして「カロリーの取り過ぎが太る原因という間違い」に傾倒していったのか?


健康やダイエットに興味がある人なら、一度は「摂取カロリーが消費カロリーを上回れば太るし、下回れば痩せる」という言説を目にしたことがあるはず。こうしたカロリーバランスに着目した考えは誤りだと主張するサイエンス・ジャーナリストが、「一体なぜ専門家でさえカロリーの取り過ぎだけが肥満の原因だとする単純な考えにとらわれるようになったのか」を考察しています。

How a 'tragically flawed' paradigm has derailed the science of obesity
https://www.statnews.com/2021/09/13/how-a-fatally-tragically-flawed-paradigm-has-derailed-the-science-of-obesity/

過去20年にわたり「脂肪が肥満の原因だと不当に悪者扱いされている」と主張してきたサイエンス・ジャーナリストのゲアリー・タウブス氏は、2021年9月13日に発表された肥満に関する研究論文の著者の欄に名を連ねる人物でもあります。同氏の肥満に対する考え方は、以下の記事を読むとよく分かります。

太りすぎや肥満はカロリーの問題ではなくホルモンの問題という主張 - GIGAZINE


タウブス氏によると、肥満の原因はホルモンの乱れや体質であって、カロリーバランスの乱れではないとのこと。つまり、人が太るのは食べ過ぎて摂取カロリーが消費カロリーを上回るからではなく、食事に含まれる炭水化物が過剰な脂肪の蓄積を助長するようなホルモンバランスを招いているからだと、タウブス氏は考えています。

しかし、タウブス氏が取材をしてきた肥満の研究者や専門家の中には、カロリーバランス理論を絶対視する人が少なくありませんでした。例えば、ハーバード大学の研究者はタウブス氏に対し、「(肥満は摂取カロリーと消費カロリーの問題だという理論は)すべての始まりとなる概念です。真面目な科学者にとっては、ある意味当たり前のことです」と話したことがあるそうです。


こうした考えの直接的な起源は、アメリカの医師であるルイス・ニューバーグが1930年に発表した論文の中で「医療関係者は一般的に、肥満には2種類あると考えています。一方は『食べ過ぎや運動不足で太ってしまった人』、もう一方は『食事とは無関係に内分泌系や体質の異常によって脂肪がついてしまった人』です」と唱えたのが始まりです。この時はまだ、肥満の原因がカロリーバランスなのか体質や分泌系の問題なのかについての統一的な見解はありませんでした。

ニューバーグが提示した2種類の肥満のうち、「体質やホルモンバランスが肥満を招く」という考え方は、主にドイツやオーストリアの医師や研究者によって支持され、1930年代後半には欧米の研究者らの間で広く認められていました。しかし、第二次世界大戦でドイツやオーストリアの研究機関が消滅してしまい、医学界で両国が優位だった時代が終わってしまったことで、この仮説は力を失ってしまいました。

代わりに台頭したのが、アメリカなどで広まり始めた「食べ過ぎが問題」とする考え方です。1940年代に入り、脳の研究者らが動物の視床下部の機能を阻害する実験を行ったところ、被検体は食欲が旺盛になり太る傾向を見せました。これを元に、生理学の研究者らは「視床下部が食行動をコントロールしているに違いない」と提唱。この仮説はやがて、「食行動がコントロールできないのが肥満の原因」という考え方に変容していきました。


1950年代になると、この理論はますます固定化されるようになり、肥満の問題は医師ではなく心理学者や精神科医の領分になりました。そして、心理学者らは「人々が食べ過ぎるのは感情的な葛藤や神経的な緊張を和らげるため」と断定しました。怒りや孤独といったネガティブな感情を抑えるための「やけ食い」が肥満の原因だとする考え方は、現代の医学書などにもよく見られるそうです。

しかしタウブス氏は、肥満の動物を人工的に作り出す研究では、肥満の原因を説明することはできないと考えています。そのことを示す最も端的な事例は、肥満になる遺伝的欠陥を持った「ob/obマウス」を用いた実験です。1985年に発表された研究では、与えるエサの量を通常の半分にしても、ob/obマウスは依然として肥満になることが確かめられました。この研究結果は、肥満の原因は食べる量ではないとするタウブス氏の主張を裏付けるものです。

タウブス氏は末尾で、「肥満の患者にカロリー制限ではなく糖質制限を行うと、患者は比較的容易に適正な体重になり、その過程で健康になります。この方法は、2型糖尿病の患者に対しても、これまでにない結果をもたらしました。従って、公衆衛生当局や研究機関が肥満や糖尿病の蔓延を食い止めるには、エネルギーバランスや食べる量、運動量などにこだわる考え方を捨てなければなりません」と述べて、肥満とカロリーの収支を結びつける考え方は誤りだと改めて主張しています。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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