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世界初の仮想通貨クルーズ船になるはずだった「サトシ号」の末路とは?

by Kolma8

パナマ湾に浮かぶ「暗号資産をインフラとする一大コミュニティ」として計画された全長約250メートルの大型クルーズ船「サトシ号」が、計画が頓挫するまでにたどった航路について、イギリスの大手紙・The Guardianが報じています。

The disastrous voyage of Satoshi, the world’s first cryptocurrency cruise ship | Cryptocurrencies | The Guardian
https://www.theguardian.com/news/2021/sep/07/disastrous-voyage-satoshi-cryptocurrency-cruise-ship-seassteading

大型クルーズ船を洋上の自治都市にしようという計画は、2010年12月に催された人類の未来についてのイベントで、Googleの元エンジニアであるパトリ・フリードマン氏が「シーステディング」と呼ばれる海上国家の構想について語ったことに端を発します。

by JackDayton

フリードマン氏の計画はその後10年間にわたり実現しませんでしたが、2020年11月に海洋工事会社Ocean Buildersの創業者であるグラント・ロムント氏ら3人の実業家が大型クルーズ船「パシフィック・ドーン」を購入したことで、にわかに現実味を帯び始めました。この船は元々1億ドル(約110億円)以上の価値があるとされていましたが、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響により、950万ドル(約10億円)で投げ売りされていたとのこと。

シーステディングの熱狂的な支持者だったロムント氏らは、パシフィック・ドーンをビットコインの考案者とされるサトシ・ナカモト氏にちなんで「サトシ号」と名付け、暗号資産のみで経済が成り立つ社会の中心にしようと考案しました。

サトシ号の購入者の1人である投資家のチャド・エルワルトフスキ氏がオンライン掲示板のRedditでサトシ号の計画について明かすと、同氏の書き込みにはサトシ号での生活がどのようなものになるのかについての質問が殺到しました。なおエルワルトフスキ氏は、タイの洋上に違法な住宅を建築したとして、2019年にタイ政府により住宅を撤去されたことがある人物です。

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エルワルトフスキ氏がRedditで明かした計画によると、サトシ号は太陽光発電で電力をまかなう環境に優しい暗号資産クルーズ船になる予定だったとのこと。また、安全上の理由から個室に電子レンジを置くことができないことや、体重が20ポンド(約9kg)を超えるペットは飼えないことなど、細かいルールが定められていました。また、サトシ号の中では暗号資産のマイニングが行えるほか、さまざまなサービスも展開され、その取引にはビットコインやイーサリアム、ビットコインキャッシュなどさまざまな暗号資産が使えるようになることも決まっていました。

シーステディングの支持者であり、ビットコイン投資の利益で仕事を辞めて生活しているというルーク・パーカー氏はThe Guardianに対し、「サトシ号はこれまで聞いたことがある中で、最も現実的なシーステディングプロジェクトでした。結局、船に揺られる生活に妻が反対したことなどからサトシ号の一室を購入することはできませんでしたが、購入ボタンを押すのを諦めるのは大変でした」と話しています。

12月3日、イベリア半島のジブラルタルにある港で整備を受けていたサトシ号は、2021年1月の正式オープンに向けてパナマ湾への航海を始めました。しかし、大西洋を進むにつれて、さまざまな問題が浮上してきました。そのうちの1つが、パナマの海事法です。当初、エルワルトフスキ氏はサトシ号から船籍の登録を抹消し、船ではなく住宅として登録することで、さまざまな規制を回避できると見込んでいました。しかし、パナマ政府はサトシ号が領海内に係留されることは許可していたものの、そのためにはサトシ号が船舶として正式に登録されていることが条件だと規定していました。


もともと、海の上は「地球上で最も厳しく規制されている場所」と呼ばれるほど制限が厳しい場所で、とりわけクルーズ船は航空機や原子力発電所に並ぶほど法律でがんじがらめにされている業界です。「船ではなく家」だという言い訳が通らず、海事法の規制をクリアできる見通しが立たなくなってしまったことで、複数の保険会社が一斉にサトシ号の保険から手を引きました。

航行中の燃料代だけで1日1万2千ドル(約130万円)もかかる中、サトシ号の保険を引き受ける保険会社が見つからないロムント氏らは、12月19日についにサトシ号をシーステディングにする計画が頓挫したことを発表。すでにキャビンを買い付けていた顧客らには、メールで返金するとの通知が送られました。


その後、廃船されることになったサトシ号は、インドのスクラップヤードへ売却されることになりました。ところが、国境を越えた廃棄物の運搬を規定するバーゼル条約により、サトシ号は条約の加盟国であるパナマから非加盟国であるインドに移動できないことが発覚したため、廃船計画も頓挫することになります。

最終的に、イギリスのクルーズ船スタートアップであるAmbassador Cruise Lineに購入されたサトシ号は、Ambienceと改名され、再び豪華客船になることが決まりました。2022年4月から運航する予定のAmbienceでは、カクテルやフルコースのディナーが振る舞われるほか、さまざまなショーが催される予定ですが、そこでの料金はビットコインでは支払えないそうです。

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in 乗り物, Posted by log1l_ks

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