睡眠不足は脳細胞に物理的なダメージを与えて情報伝達を遅らせる

睡眠不足の日が続くと頭がぼんやりしたり、反応が遅れたりしやすくなります。こうした変化は気分や根性の問題ではなく、神経の信号を速く伝えるための髄鞘(ずいしょう)が傷ついている可能性があるのだとイタリアのカメリーノ大学を中心とする研究チームが報告しました。
Sleep loss induces cholesterol-associated myelin dysfunction | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2523438123
Sleep Loss Is Physically Damaging Your Brain Cells, Study Suggests : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/sleep-loss-is-physically-damaging-your-brain-cells-study-suggests

研究チームが注目したのは神経細胞の軸索を包む髄鞘です。髄鞘は脂質が多い層で、電線の被覆のように信号の漏れを防いで伝達速度を高める働きを持っています。髄鞘の材料の一部になるのがコレステロールで、脳内では主にオリゴデンドロサイトが供給や維持の役目を担っています。
今回の研究では人の脳の画像データと動物実験を組み合わせて、睡眠不足と「白質」という髄鞘が多い領域の関係が分析されました。まず185人分の脳MRIデータでは、睡眠の質を自己申告で評価する指標「Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)」のスコアが悪いほど、白質の指標が低い傾向が広い範囲で見られたとのこと。

次にラットを用いた実験では、睡眠を10日間制限した後に白質の指標が低下し、電子顕微鏡で髄鞘が薄くなっている様子が確認されました。研究チームは、軸索そのものの太さは大きく変わらない一方で髄鞘側の変化が目立った点がポイントだとしています。

さらに、睡眠の制限を受けたラットでは左右の大脳半球をまたぐ神経信号の伝わりが遅れ、特定の脳領域間の信号伝達は約3割遅くなったとのこと。脳領域間の同期も困難になり、運動や記憶に関わる課題の成績も低下したと研究者は報告しています。
「では、なぜ睡眠不足によって髄鞘がダメージを受けるのか?」と研究を進めるにあたり、研究チームはオリゴデンドロサイトに着目しました。遺伝子発現や脂質の解析を行ったところ、睡眠不足によって小胞体に異常なタンパク質が蓄積した「小胞体ストレス」状態となり、脂質の代謝が乱れる様子が示されたとのこと。特にコレステロールの恒常性に関わる変化が目立ち、髄鞘に必要なコレステロールがうまく回らなくなることが髄鞘の脆弱化と伝達遅延につながる筋道が示されました。
また、研究チームが睡眠不足にしたラットにシクロデキストリンという環状オリゴ糖を投与してコレステロールを髄鞘へ運ぶ流れを補助したところ、神経信号伝達の遅延が抑えられ、運動や記憶の成績も改善したとのこと。研究チームは、睡眠不足の影響が「オリゴデンドロサイトによるコレステロール制御」を介して起きる可能性を裏付ける結果だとしています。
ただし、この研究では人の解析は睡眠の自己申告と脳画像の関連を見ただけであり、睡眠不足と髄鞘へのダメージの因果関係を直接示すものではありません。動物実験で示されたメカニズムが人にどれだけ適用できるのか、睡眠不足から回復したらどの程度戻るのかについては今後の検証が必要です。研究チームは「今回示された経路は、慢性的に睡眠不足になりやすい人の影響を和らげる介入の手がかりになる可能性もある」としています。
・関連記事
慢性的な睡眠不足が脳の神経にダメージを与えていることが明らかに - GIGAZINE
マラソンをすると脳が自分自身を食べることが研究で判明 - GIGAZINE
睡眠不足によって「痛み」が引き起こされるメカニズムが判明 - GIGAZINE
「睡眠不足で死に至るメカニズム」が解明される、死を避けるために必要なものとは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in サイエンス, Posted by log1b_ok
You can read the machine translated English article Lack of sleep physically damages brain c….







