絶滅危惧種の鳥のひなを「フェイクニュース」で捕食者から救うことに成功
うそや偽の情報で人を惑わすフェイクニュースを使うことで、「都市を停電に追い込むテロが実行可能」と指摘されるなど、フェイクニュースには危険な側面があると警鐘が鳴らされています。そんなフェイクニュースを武器にして、人間が持ち込んだ捕食者から絶滅危惧種の鳥類を救う試みを科学者がスタートさせました。
Misinformation tactics protect rare birds from problem predators | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/7/11/eabe4164
Scientists used 'fake news' to stop predators killing endangered birds — and the result was remarkable
https://theconversation.com/scientists-used-fake-news-to-stop-predators-killing-endangered-birds-and-the-result-was-remarkable-152320
南西太平洋の島国であるニュージーランドには、絶滅危惧種のハシマガリチドリや、準絶滅危惧種のチャオビチドリを始めとする、希少なシギ・チドリ類の鳥が数多く生息しています。しかし、人間と共に島にやってきたネコ・キツネ・フェレットといった肉食の捕食者により、その数を減らしつつあることが分かっています。
by vil.sandi
ニュージーランドには、元から大型の肉食性の鳥類などが生息していますが、シギ・チドリ類は岩と岩の間に巧妙に隠れた巣を作ってカムフラージュし、卵やひな鳥を在来種の捕食者から守ってきました。しかし、人間が持ち込んだ外来種の捕食者は、匂いを頼りにして簡単にシギ・チドリ類の巣を見つけてしまうため、絶滅危惧種の鳥が進化により身に付けてきた対抗手段ではまるで歯が立ちません。人間が持ち込んだ侵略的外来種から在来種を守る方法としては、外来種の捕獲や駆除などが挙げられますが、こうした方法では在来種の保護に十分な効果が得られないのが現状です。
そこで、オーストラリア・シドニー大学の生物学者らは、鶏やウズラ、カモメから「鳥の匂い」を抽出。ワセリンなどと合成して作った人工の「鳥の匂い」を、ニュージーランドの岩場に塗布する実験を行いました。実験が行われたのは、シギ・チドリ類がニュージーランドにいない季節だったため、この実験は実在しない獲物の匂いという「ウソの情報」で捕食者をだます実験だったと言えます。
この実験により、野生のネコやフェレットといった外来種の捕食者が足しげく岩場に通っては空振りを繰り返す様子や、次第に岩場に寄りつかなくなる様子が観察されました。
実験後、シギ・チドリ類の繁殖シーズンを迎えた岩場を調査したところ、研究チームが「鳥の匂い」を散布した岩場では、何もしなかった岩場に比べて「捕食者によって破壊された巣の数が半減していた」ことが判明。その結果、研究チームがフェイクニュースをバラまいた岩場で卵からかえったひなの数は、何もしていない岩場の1.7倍にまで増加したとのことです。
この実験結果を発表した論文の著者であるシドニー大学のピーター・バンクス教授とキャサリン・プライス博士は、「私たちの試算では、今回のフェイクニュース戦略により25年間でシギ・チドリ類の個体数を75%増加させることが可能だと予測されています。一方、なにもしなければ個体数は40%以上減少してしまうでしょう」と指摘。フェイクニュース戦略は、捕食動物を捕殺する従来の方法で効果が得られない場合の選択肢として有効だとの見方を示しました。
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