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映画をド派手に演出するために必須なVFXアーティストがピカピカの金属球を愛する理由とは?


ハリウッド映画などで欠かせない要素のひとつとなっている「VFX」は、さまざまな映像に使用されており、専門家でもなければCGで作られた映像なのか実写映像なのかを完璧に見分けることは難しいもの。そんなVFXを用いる映像の撮影現場では「キラキラと光り輝く球体」が使用されるそうで、その理由に迫るムービーをVoxが公開しています。

Why visual effects artists love this shiny ball - YouTube


VFXをふんだんに用いた昨今の映画や映像には欠かせないものがあります。


それが、20ドル99セント(約2200円)程度で購入できるという、このキラキラ光る球体。この球体こそがVFXをよりリアルに見せるためのカギであるとのこと。


そんなVFXと光る球体の関係について語ってくれるのが、映画業界で17年以上働いてきたというLeo Bovell氏。同氏はHuluの人気オリジナルシリーズである「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」のVFXスーパーバイザーを担当した人物です。


「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」のシーズン3で登場する、リンカーン記念堂でのワンシーン。このシーンでは「破壊されたリンカーン大統領像」が登場するのですが、これをVFXで表現したのがBovell氏です。


「このシーンでは基本的に、実物のリンカーン像を3Dのものに置き換える必要がありました」とBovell氏。


Voxのフィル・エドワード氏が「このシーンのために、できる限り多くの参考情報を集める必要があるのは明らかですよね」と問いかけると、「その通りです。撮影の合間に現場でできる限りのことをしておく必要があります。撮影の合間に現場へ入ることができないケースもありますが、それは現場がノリにノッているからであり、それを邪魔するわけにはいきません」とBovell氏が返答。


「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」やマーベル・シネマティック・ユニバースのようにVFXを多用する作品で直面する大きな問題のひとつが、「VFXで表現するもの」が本物の日の光を浴びているかのようにしなければいけないという点です。


これを実現することで、実際に撮影した映像と……


VFXを用いた映像の区別がつかなくなります。つまり、本物のようにリアルな映像が作り出せるようになるというわけ。


実際に「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」のVFXを担当したのはMavericks VFXというスタジオ。


そして、撮影現場で用いられたのがキラキラ光る球体です。この球体を使用する理由は「HDRI」にあります。


「HDRI」とはハイダイナミックレンジイメージの略称で、近年ではiPhoneなどのスマートフォンカメラでも「HDR」として気軽に使用できるようになっているもの。


HDR機能を用いると、高い輝度幅を持つ写真を撮影することができます。HDRをオフのまま撮影した写真が左で、オンにして撮影した写真が右のもの。高い輝度幅を持った写真が撮影できるため、極端に明るかったり暗かったりするエリアの情報を、より精細に残すことが可能です。


白線で囲まれた部分は、HDRオフで撮影すると白飛びしてしまっていますが、オンで撮影した写真の方は空の色がしっかりと表現できています。


別の写真でもHDRのオンオフでどのように変わってくるかをチェック。通常の風景写真をHDRオフで撮影するとこんな感じ。


こちらも光源となる太陽付近は明るすぎて真っ白になり……


森の奥深くの暗所は真っ暗でディテールを捉えきることができません。


しかし、HDRを用いて撮影するとこうなります。


暗所はHDRオフ時よりも精細に撮影できており、木の幹がしっかりと捉えられていることがわかるはず。


太陽も輪郭がしっかり写り、白飛びしてしまっていた雲の形も正確に表現できているのがわかります。


HDR機能を用いて撮影できるHDRIは、異なる露出度で撮影した写真から情報を抽出することで、高輝度幅を持つように生成した写真です。


VFXではHDRIを利用して、シーン中に光がどのように作用するかを把握します。


さらに、360度をカバーするようなパノラマ写真を撮影することができれば、写真に写ったあらゆるエリア内で「光がどのように作用するか」をシミュレートできるようになります。つまり、手軽に広範囲の写真が撮影できるようにするため、鏡面仕上げになった球体を撮影しているわけです。


また、HDRIはVFXで追加するオブジェクトを「どのように照らすか?」を決めるためだけに使用されるわけではありません。VFXで新たに光源が追加された場合、シーン中のあらゆるものに対してどのように光が差すかをシミュレーションするためにも使用されるそうです。


続けて、エドワード氏が「撮影日から離れてVFXを用いて何かオブジェクトを追加しなければいけないというタイミングで、HDRIはどのように役立つのでしょうか?」と質問。


するとBovell氏は、「HDRIを撮影して現場の光に関する情報をコンピューターに入力すると、すぐにフィードバックが得られます」とコメント。


例えばVFXで大理石を表現する場合、素材の材質や影をリアルに表現するためにHDRIが非常に役立つとのこと。


HDRIを撮影するためにキラキラと光る球体が使用されてきた理由は、この球体を撮影した写真を適切なソフトウェアに入れることで、手軽に360度写真が生成できるため。


さらにあらゆる露出度で写真を撮影しておけば、360度写真のHDRIを作成することもできます。


なお、360度写真を撮影する方法は、光る球体を撮影する以外にもあります。カメラを回転させてパノラマ写真を撮影したり、360度カメラを使用したりすることも可能です。少し前まではこの光る球体を用いる手法がスタンダードだったようですが、Bovell氏は「私は360度カメラのTHETAを使っています。とっても小さいので邪魔にならないんです」と語りました。


360度写真を撮影するための各手法を比較するとこんな感じ。圧倒的に素早く終わるのが光る球体を撮影する方法。最もクオリティが高いのがカメラを回転させて撮影する方法です。


球体が写り込んでいない写真にHDRIから取得した光に関する情報を用いることで、3DCGで作成したオブジェクトをリアルな光で照らすことが可能になります。VFXで追加したオブジェクトには木や太陽が反射しているのがわかるはずで、これはHDRIを撮影した恩恵によるところ。


このような「3Dオブジェクトに光を当てることで、現実世界に存在するかのように見せる手法」は、1990年代に研究者のポール・デベヴェック氏により考案されました。


デベヴェック氏は論文の中で、「3Dオブジェクトをリアルにレンダリングするには、現代の技術は手間がかかりすぎており、必ずしも成功しているとは言い難い」と述べ、1990年代当時のVFXが非効率なものであったとしています。


そんな従来の手法よりも手軽かつリアルに3Dオブジェクトを照らすための手法として提案されたのが、HDRIを用いる手法だったわけ。そして、論文の中ではより広範囲のHDRIを撮影するための手法として、「光る球体を撮影して360度写真を生成する」というものが挙げられています。


現在では、古い部屋や大聖堂の外など、さまざまな環境のHDRIを簡単にシミュレートすることが可能となっています。それでも、わざわざ360度写真を撮影し、自分の手でHDRIを作成して3Dオブジェクトをよりリアルに照らそうとするアーティストが多くいるそうです。

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in 動画,   映画, Posted by logu_ii

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