生き物

大規模な駆除作戦を生き延びたネズミの「駆除されにくい性格」は次の世代に受け継がれるのか?


生存力の強いハツカネズミなどの動物は外来種として生態系を乱すことがあるため、たびたび大規模な駆除作戦が実施されます。そんな駆除作戦を生き延びたネズミの「慎重で捕まりにくい性格」が次の世代に受け継がれるのかどうか、実験して確かめた結果が発表されました。

Testing transgenerational transfer of personality in managed wildlife populations: a house mouse control experiment - Johnstone - - Ecological Applications - Wiley Online Library
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/eap.2247

Shy rodents may be better at surviving eradications, but do they pass those traits to their offspring?
https://theconversation.com/shy-rodents-may-be-better-at-surviving-eradications-but-do-they-pass-those-traits-to-their-offspring-146924


外来種は生態系に害を及ぼす可能性があり、貴重な固有種の絶滅といった取り返しのつかない結果を招くことがあります。特にオーストラリアの島々などに住む固有種は、捕食者の危険にさらされない環境で進化してきたため、ネズミのような肉食性の外来種を驚異として認識できず、簡単に捕食されてしまう場合があるとのこと。

こうした理由から、大規模な外来種の駆除が時折行われています。オーストラリアのロード・ハウ島では、貴重な固有種が外来種のネズミによって脅かされたため、2018年から大規模なネズミ駆除作戦を実施。その結果、2020年1月には「ネズミの駆除に成功した」と宣言しています。

しかし、外来種を根絶する試みは必ずしも成功するわけではなく、哺乳類を対象とした駆除作戦のうち平均して11%が失敗しており、特にハツカネズミの駆除は失敗率が75%に達するとの調査結果もあります。

繁殖力の強いネズミは駆除に失敗するとすぐに個体数が増えてしまいます。南太平洋のヘンダーソン島で実施されたネズミの駆除について分析した2016年の研究では、約50匹のネズミが駆除作戦を生き延びた結果、わずか2年で約7万5000匹まで個体数が増えたと報告されました。

by J. N. Stuart

また、駆除を生き延びた個体が繁殖する上で懸念されるのが、「人間の駆除作戦を生き延びやすい性格特性を持った個体が選択的に増えるのではないか?」という点です。大胆で活動的な個体はワナなどにかかりやすいため駆除が容易だと考えられますが、慎重で臆病な性格の個体はワナに捕まったり毒入りのエサを食べたりする可能性が低く、駆除されにくいと考えられます。親の性格が子どもに受け継がれる場合、駆除作戦を生き延びた慎重で臆病な性格の個体が再繁殖すると、「駆除されにくい性格の個体」が増えてしまう可能性があります。

人間を含めた動物の性格特性は経験や親からの学習、遺伝的要因の組み合わせで形作られるとされており、人間はイヌやウシ、ウマを家畜化する上で好ましい性格の個体を選択的に繁殖させてきました。この傾向が野生のマウスにも当てはまるのかどうかを確かめるため、シドニー大学の研究チームはモデル動物としてハツカネズミを使用し、「根絶が失敗した後に再繁殖したシナリオ」を再現する実験を行ったとのこと。


研究チームは野生のハツカネズミをワナで集めてから実験施設内のフィールドに放し、カメラで各個体の様子を撮影してネズミの性格を調べました。夜行性であるにもかかわらず明るい場所へ頻繁に移動したネズミを「活発で大胆な性格」に分類するなど、行動に基づいて「大人しく慎重な性格」や「中間に位置する性格」にネズミを分類しました。

続いて、研究チームはネズミを性格ごとの集団に分けて実験施設の庭に放して1世代繁殖させ、子孫がある程度成長した10週間後に再び捕獲したとのこと。そして、同じ性格の個体群から生まれたネズミの性格について調査したところ、同じ性格の親たちから生まれたネズミであっても、その性格は幅広いことが判明しました。つまり、活発で大胆なネズミから産まれた子孫は必ずしも活発で大胆というわけではなく、慎重なネズミから産まれたネズミが慎重である傾向は見られなかったそうです。

by Nick Harris

ハツカネズミ以外の動物でも同じ結果になるかどうかは不明ですが、少なくともハツカネズミの駆除においては、生き残った個体が持つ性格を子孫がそのまま受け継ぐのではなく、次世代のネズミは幅広い性格を持つと示唆されました。「これは、除去することが不可能な個体群に直面する可能性が低いことを示唆します」「これは心強いニュースでした」と、研究チームは述べています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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