新型コロナウイルス感染症は軽度の症状でも1カ月以上にわたり強い疲労が続く可能性がある
集中治療室(ICU)に入る必要があるほど重度の病気にかかった場合、回復後も数週間~数カ月にわたって特定の症状が持続する場合があります。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者はたとえ症状が軽度であっても、回復してから数週間以上にわたる慢性的な疲労を抱える可能性があると、キングス・カレッジ・ロンドンの疫学教授であるフランシス・ウィリアムズ氏が指摘しています。
Coronavirus: why are some people experiencing long-term fatigue?
https://theconversation.com/coronavirus-why-are-some-people-experiencing-long-term-fatigue-141405
ウィリアムズ氏によると、イギリスにおけるCOVID-19患者の症状調査アプリ「COVID Symptom Study app」の集計結果から、比較的軽度の症状から回復したCOVID-19患者は長期的に「圧倒的な疲労感」「動悸」「筋肉痛」「体のしびれ」といった症状を経験することが判明しているとのこと。また、中でも回復後に慢性的な疲労を経験する人は、全体のおよそ10%に上るそうです。
数週間以上にわたって疲労が継続し、時には体を動かすことさえ困難になってしまう慢性疲労は、がんの治療や炎症性関節炎までさまざまな臨床的状況で確認されています。仮に、COVID-19の患者のうち1%で3カ月にわたって体調不良が継続した場合、イギリス国内だけで数千人以上の人々が職場復帰できなくなってしまうとウィリアムズ氏は指摘。COVID-19による慢性疲労について研究し、対処する必要があると述べています。
COVID-19は慢性疲労を引き起こす唯一の感染症ではなく、伝染性単核球症を引き起こすエプスタイン・バール・ウイルスに感染した人や、SARSコロナウイルスに感染した人でも、症状の回復後に慢性的な疲労を経験するケースがあります。ウイルス感染症の後に発生する慢性疲労を、特にウイルス感染後疲労症候群とも呼ぶとのこと。
これまでは、基礎疾患の効果的な治療により慢性的な疲労感も軽減されるとされてきましたが、ウイルス感染症に対する特定の治療法は難しいものです。ウイルス感染症により慢性疲労が引き起こされるメカニズムはこれまでのところ不明ですが、肺や脳、脂肪への感染が引き金になっている可能性や、感染症が治った後も免疫が不適切に反応することが原因かもしれないと考えられています。
2018年の研究では、C型肝炎の治療に使われる「インターフェロンα」という化学物質が多くの患者に対してインフルエンザのような症状をもたらし、そのうちの少数で慢性疲労(ウィルス感染後疲労症候群)が発生したことが判明。さらに、このインターフェロンαが原因の症例について調査したところ、炎症を促進するインターロイキン-6、インターロイキン-10という2つの分子のベースラインレベルが、慢性疲労を引き起こすかどうかの予測因子として働くことがわかったとのことです。
さらにこれら2つの炎症誘発系分子は、重症のCOVID-19患者に見られるサイトカインストームに見られる点が興味深いとウィリアムズ氏は指摘。実際に「インターロイキン-6の作用を抑制するトシリズマブという治療薬がCOVID-19に有効である」という研究結果もあり、COVID-19患者における慢性疲労についても、インターロイキン-6やインターロイキン-10が関係している可能性があります。
ウィリアムズ氏らの研究チームは、COVID症状調査アプリを使用してCOVID-19患者のウイルス感染後疲労症候群について調査しています。また、イギリスの双子を対象に行われている大規模調査「TwinsUK」に含まれる双子にアンケートを行うなどして、COVID-19患者における慢性疲労に関する血液中の因子や、原因となる免疫メカニズムを解明しようとしているとのこと。
COVID-19の患者は通常のウイルス感染症以上に、前例のない社会の変化や移動の制限、大きな不安や定量化が困難なリスクに直面しているため、有効な研究を設計することが難しいとウィリアムズ氏は認めています。ある人は「これで自分は死ぬのではないか」と考えており、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などについても調査する必要があるそうです。
慢性疲労は単一の医療分野の範囲内に収まるものではないため、医学部のカリキュラムでも十分に教えられておらず、医師も一般的に見過ごしがちな病気です。しかし、近年ではオンラインでの医療従事者向けトレーニングが提供され、慢性疲労に苦しむ患者に向けたガイダンスも提供されているとのこと。慢性疲労を覚えている患者は、無理に運動して体力を精力的に回復させようとすると逆効果であり、少しだけ肉体的・精神的に頑張ったらすぐに休息を取り、職場復帰も段階的に行うべきであるとウィリアムズ氏は述べました。
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