サイエンス

新型コロナの回復後も疲労や認知機能の低下が続く「ロングCOVID」は血液に焦点を当てた治療が有効な可能性


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した患者の中には、疲労感や息切れ、認知機能の低下といった症状が感染から数カ月以上も継続する「ロングCOVID」という後遺症に苦しむ人が多数います。新たに南アフリカとイギリスの研究チームが、「ロングCOVIDは体内の微小な血栓と血小板の異常が関与している可能性があり、血液に焦点を当てた治療が有効かもしれない」とする査読前論文を公開しました。

Combined triple treatment of fibrin amyloid microclots and platelet pathology in individuals with Long COVID/ Post-Acute Sequelae of COVID-19 (PASC) can resolve their persistent symptoms
https://www.researchgate.net/publication/357428572_Combined_triple_treatment_of_fibrin_amyloid_microclots_and_platelet_pathology_in_individuals_with_Long_COVID_Post-Acute_Sequelae_of_COVID-19_PASC_can_resolve_their_persistent_symptoms

Could microclots help explain the mystery of long Covid? | Resia Pretorius | The Guardian
https://www.theguardian.com/commentisfree/2022/jan/05/long-covid-research-microclots

COVID-19の後遺症とされるロングCOVIDは、慢性的な疲労や息切れ、関節痛、頭痛といった身体的症状に加え、頭に霧がかかったような感覚がして認知能力や集中力が低下する「brain fog(ブレイン・フォグ)」という症状もあることが報告されています。56カ国に住む合計3762人のロングCOVID患者を対象にした2020年の研究では、半数近くのロングCOVID患者が感染から6カ月が経過しても疲労や倦怠感、認知能力の低下などによってフルタイムの仕事に復帰できていないこともわかりました。

原因であるCOVID-19自体は軽症で済んだ患者でも、10%が「仕事や生活に支障を来す後遺症」に悩まされているとの研究結果も報告されており、「何百万人もの人々がロングCOVIDを抱える未来が到来する可能性」も警告されています。その一方で、ロングCOVIDの定義は依然として不明確であり、病理生態学的メカニズムも完全には解明されていないとのこと。

新型コロナによって何百万人もの生存者が後遺症を抱えるという未来が訪れる可能性 - GIGAZINE


COVID-19の主な症状にはせきや呼吸困難がありますが、COVID-19は呼吸器系だけでなく血液に影響を及ぼすことが指摘されています。以前研究では、COVID-19患者から採取した血液サンプル中で、体内の血栓を分解するフィブリン溶解(繊維素溶解/繊溶)というプロセスに抵抗性を持つ微小な血栓が発見されています。

そこで南アフリカ・ステレンボッシュ大学とイギリス・リヴァプール大学の研究チームは、ロングCOVIDと微小血栓や血液の関連および有望な治療法についての研究を行いました。研究チームはまず、南アフリカに住む845人のロングCOVID患者を対象に、性別や年齢、併合疾患、ロングCOVIDの症状などを調査しました。その結果、参加者の過半数で高血圧や高コレステロール値、2型糖尿病、自己免疫疾患、血栓症などの血液に影響を及ぼす疾患の既往歴が確認されています。

これとは別に、70人のロングCOVID患者の血液サンプルを分析したところ、全員で有意な量の繊維素溶解に抵抗性を持つ微小血栓と、血小板の異常な機能亢進が見つかりました。一般的に、血栓は用済みになると繊維素溶解によって分解されますが、繊維素溶解に抵抗性を持つ血栓は体内を循環してさまざまな問題を引き起こします。研究チームによると、正常に分解されない微小血栓は毛細血管を詰まらせ、体内の各組織への酸素供給を妨げることから、ロングCOVIDにおける多様な症状の原因となっていると説明できるそうです。また、同じ患者群で見つかった異常な血小板の機能亢進も、血栓の形成に影響を及ぼします。

研究チームはこの結果を踏まえて、血液サンプルを採取した70人中24人のロングCOVID患者を対象に、微小血栓と血小板の機能亢進に焦点を当てた治療法を試しました。抗血小板作用を持つクロピドグレルアセチルサリチル酸(アスピリン)、血栓塞栓症の治療に用いられるアピキサバン、胃を保護するパントプラゾールの投与を1カ月続けたところ、24人全員が「主な症状や疲労感が和らいだ」と報告したほか、実際に微小血栓や血小板のスコアも正常なレベルに戻ったとのこと。


なお、今回の論文はまだ査読前の状態である点に注意する必要があるほか、抗血小板・抗凝血作用のある薬剤を投与する際は出血などの危険を回避するために、医師の厳格かつ的確な指示に従う必要があるとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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