若者の血を輸血するのではなく「血液を希釈」することで若返り効果が得られるかもしれないという研究結果
人間は古くから「若返り」や「不老不死」を求めてさまざまな探求を行ってきましたが、近年では「若い人の血には若返り効果がある」という報告を基にして、「若者の血を輸血して若返る」ことを目的としたビジネスも展開されています。そんな中、血液と若返りの効果について調べているカリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、「血液を『希釈』するだけで若返り効果が得られる」という研究結果を発表しました。
Aging | Rejuvenation of three germ layers tissues by exchanging old blood plasma with saline-albumin
https://www.aging-us.com/article/103418
Diluting blood plasma rejuvenates tissue, reverses aging in mice | Berkeley News
https://news.berkeley.edu/2020/06/15/diluting-blood-plasma-rejuvenates-tissue-reverses-aging-in-mice/
2005年、カリフォルニア大学バークレー校のイリーナ・コンボイ教授らの研究チームは、2匹の年齢が違うマウスの血管をつなぎ、2匹の血液がお互いの体を自由に行き来できるようにする実験を行いました。その結果、年齢が高い老いたマウスの組織が若返り、老化を逆転できるという驚くべき事実が判明。この発見をきっかけとして、多くの研究者らが「若者の血液には若返り効果がある特別なタンパク質または分子が含まれているのではないか」と考え、研究をスタートしたとのこと。
しかし、2005年の研究が過度に注目を集めた結果、「若者の血液に若返り物質がある」という単なる予想が一人歩きしてしまったとコンボイ教授は指摘。その後もコンボイ教授の研究チームは実験を続けており、2016年には「若いマウスの血液そのものに若返り効果はなく、老いたマウスの血液中にある何らかの物質が老化を引き起こしている可能性がある」ことを示す研究結果を発表しています。
若い血液に「若返り効果」は存在しないことが判明、ただし老化を遅らせる別の可能性が新たに判明 - GIGAZINE
by Phillip Jeffrey
2016年の研究結果から、コンボイ教授は加齢に伴う特定のタンパク質の蓄積が組織の維持や修復を阻害するのであり、2匹のマウスを結合したことによる若返り効果は、老いたマウスの血液が希釈されたことによる影響ではないかと考えたそうです。そこで、コンボイ教授の研究チームは老いたマウスでも若いマウスでもなく、「中立的な年齢の血液」としてアルブミン入りの生理食塩水を用いる実験を行いました。
研究チームが行った新たな実験では、老いたマウスの血漿の半分を、5%のアルブミンを含んだ生理食塩水に置き換えて経過を観察したとのこと。この作業ではマウスの血漿に含まれていたタンパク質が単にアルブミンに置き換えられただけでしたが、老いたマウスでは脳や肝臓、筋肉といった組織が若返っていることが確認されました。
さらに研究チームは若いマウスでも同様の実験を行いましたが、特に若いマウスの健康に悪影響が及ぶことはなかったそうです。また、血漿の半分をアルブミン入りの生理食塩水に置き換えたことによる若返り効果は、2匹のマウスを血管でつないだ場合と同等か、それ以上のものだったと研究チームは報告しています。
血液の希釈によって老いたマウスの健康が大幅に改善したことを確認した後、研究チームは若返ったマウスの血液中のタンパク質を分析するプロテオーム解析を実施。その結果、老いたマウスの血液では血漿交換によって年齢と共に上昇する炎症性タンパク質の濃度が減少すると同時に有益なタンパク質の数値が増えており、血漿交換が若返り効果をもたらしていたとのこと。同様の効果は、血漿交換療法が実施された人間の血液でも確認されたそうです。
今回の発見により、若返りには「若者の血液に含まれる何らかの若返り物質」ではなく「老人の血液に含まれる何らかの老化物質」が関与しており、それを取り除くことで若返りが可能となる見方が優勢となりました。コンボイ教授は、「若い血液や何らかの因子は若返り効果に必要ありません。古い血液の希釈で十分です」と述べました。
血漿成分に含まれる病因物質を除去する血漿交換療法は、すでにアメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認されており、グッドパスチャー症候群やギラン・バレー症候群、全身性エリテマトーデスといった自己免疫疾患を治療するために使用されています。
論文の共著者であるDobri Kiprov氏は、「人々が『若者の血漿には若返り物質が含まれている』というアイデアを諦めるにはしばらく時間がかかるでしょう」と指摘しつつも、今回の研究結果が老化だけでなく、自己免疫疾患に関連する血漿交換療法の研究を盛り上げることを願っていると述べました。
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