サイエンス

なぜ新型コロナは人口の80%に感染する前に急速な感染拡大を止めたのか?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界各国で流行し、一時は医療圧迫が問題となりましたが、アメリカ・ヨーロッパ・日本などで徐々に感染拡大が収束傾向に転じています。まだ予断を許さない状況であり、急速な感染拡大が止まった理由も明らかではありませんが、これまでの研究結果から「抗体以外のところで人が免疫を獲得している可能性」をソフトウェアエンジニアで起業家のバート・ハーバート氏が論じています。

COVID-19: The T Cell Story - Articles
https://berthub.eu/articles/posts/covid-19-t-cells/


COVID-19の流行が始まったとき、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体は人体にあらかじめ存在せず、全ての人がウイルスに感染する可能性がある」と考えられました。このため、集団免疫を獲得する前に、人口の80%がウイルスに感染する可能性があると導き出されました。

しかし、パンデミックから数カ月が経過しても、人口の80%が感染する事態には至っていません。

◆なぜCOVID-19の感染拡大は早い時期に横ばいになったのか?
まだ謎の多いSARS-CoV-2ですが、上記のような背景から、いくつかの可能性が浮かび上がっています。まず、大規模なCOVID-19の検査を行った国が存在する一方で、劇的な戦略を取らなかった国も存在しますが、いずれの国でも感染割合が人口の10~20%を越える前に、感染者数を示すグラフは横ばいになっています。「これは不思議な現象です」とハーバート氏。


さまざな研究結果から、COVID-19は1人の感染者から2~3人に感染すると考えられており、人口の60%にウイルスが感染するまでは感染拡大が「急速に」起こると考えられてきました。しかし、実際の調査によると、一緒に暮らしていたり、同じベッドに寝ていたりしても、多くの人はウイルスを他の人に感染させないことが示されています。

この現象は「過分散」と呼ばれます。つまり、平均すると「1人から2~3人に感染する」とは示されているものの、そこには分散のムラがあり、「ほとんど感染させない多数の人々」と「多くの人に感染させる少数の人々」が存在することが考えられるわけです。


人の感染しやすさの違いによる過分散を考慮すると、人口の60%が感染する前に感染拡大速度が横ばいになることも説明できる、とハーバート氏は述べました。簡単にいうと、ウイルスが容易に感染できるのが人口のうち15%だとすれば、感染割合が15%に達すると、ウイルスは感染拡大が難しくなるということになります。

もちろん、この考えには「問題がある」とする科学者もおり、実際のところはまだわかりません。一方でハーバード氏は、上記の仮説に立ち、「なぜCOVID-19にかかりにくい人とかかりやすい人がいるのか」を、人の免疫機能の仕組みから検討しています。

◆免疫システムは複数の層から成り立っている


抗体検査で調べられる「抗体」は人の免疫機能の1つですが、ウイルスの抗体以外にも、人の体にはさまざまな免疫機能が備わっています。これには、ウイルスが細胞と接触することを防ぐ「粘液」の存在や、未知の病原体に対しても攻撃を行う「自然免疫システム」が挙げられます。

ウイルスに暴露される量が少ない場合は、粘液ような、いわゆる「初期段階」の免疫システムによって感染を防ぐことが可能です。このような免疫システムで防げず、体の中にウイルスが入りこんだ場合は、体内で作られた抗体がウイルスを認識し結合することで、体内のウイルスを殺す段階になります。

ただし、抗体はウイルスを効率よく不能にする上で重要な存在ですが、何兆ものウイルスがコピーされ続けている体内では、完璧な解決法ではないとのこと。このような場合には、ウイルスに感染しDNAを複製し続ける細胞自体を殺す細胞性免疫が大きな役割を持ちます。

細胞性免疫は、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常な細胞を、抗体を介さずT細胞などの免疫細胞そのものが攻撃することをいいます。免疫細胞がウイルスに感染した細胞を見分けるためには、細胞の表面にある糖タンパク質・MHCに、ウイルスタンパク質から取得されたペプチドが現れているかどうかを目印にします。

抗体検査は比較的簡単に、迅速に実施することが可能です。このため既に抗体検査は各国で行われていますが、記事作成時点で、ある人口に高い抗体保有率が示されたことはありません。

一方で、細胞性免疫が機能しているかどうかを検査するのは、非常に難しいとのこと。細胞性免疫の検査は、SARS-CoV-2の断片を細胞表面にあるMHC分子に発現させ、T細胞がそれに反応するかどうかを検査する必要があり、現実的ではないためです。このため、人々が細胞性免疫によってSARS-CoV-2から体を守っているかは、まだ明確に示されていない状態です。

ただし、いくつかの研究ではSARS-CoV-2に対するT細胞やB細胞の良好な反応が見られたと報告が上がっています。

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検査の結果から「既に多くの人はSARS-CoV-2に対する抗体を持っている」とはいえないものの、T細胞やB細胞の研究から、予想よりも多くの人がSARS-CoV-2に対する免疫を持っている可能性は考えられます。一方で、COVID-19は細胞性免疫応答を回避することに優れているとする、いくつかの兆候も存在するとのこと。

記事作成時点では、これらの可能性は実証されていないものの、このテーマは今後数カ月で集中的に研究されていくだろうとハーバート氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by logq_fa

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