犬は「苦しんでいる飼い主のことを助けたい」と思っているという研究結果
「大切にされていた犬が飼い主を助けるために行動する」という話は多くの国や地域に伝わっており、犬が人間に強い愛着を持っていることを示すエピソードとして語られています。その一方で、犬が実際に飼い主をどれほど助けたいと思っているのかについて、科学的な調査はあまり行われてきませんでした。そこで、アリゾナ州立大学の研究チームが60匹の犬を対象にした実験を行ったところ、「犬は本当に飼い主を助けたいと思っている」という結果が示されました。
Pet dogs (Canis lupus familiaris) release their trapped and distressed owners: Individual variation and evidence of emotional contagion
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0231742
Yes, your dog wants to rescue you | ASU Now: Access, Excellence, Impact
https://asunow.asu.edu/20200528-discoveries-yes-your-dog-wants-rescue-you
Your Dog Really Does Want to Rescue You, Research Finds
https://www.sciencealert.com/dogs-really-do-want-to-rescue-us-if-they-can
アリゾナ州立大学の大学院生であるJoshua Van Bourg氏は、犬が飼い主を助けるために行動するというエピソードについて「これは広く普及している伝説です」と述べています。Van Bourg氏はアリゾナ州立大学で犬の行動について研究するClive Wynne教授と協力して、実際に犬が飼い主を救出する傾向を持っているのかどうかについて調べる実験を行いました。
研究チームは実験のために、人を救出するための特殊な訓練を受けたことのない普通の犬60匹とその飼い主を集めました。実験では、「助けて」という真に迫った声を出すレクチャーを受けた飼い主が室内に置かれた箱の中に入って「助けて」と呼びかけ、箱の外側にいる犬がどのように反応するのかが観察されました。
実験の様子は、以下のムービーで見ることができます。
Van Bourg Dog Rescue Study - YouTube
犬が部屋の中に入ると、箱の中にいる飼い主はまず最初に「4回」床を叩きます。
それから、「助けて!」と叫び声を上げて犬に救助を求めました。なお、この際はあくまでも「助けて!」という声を上げるだけで、犬の名前などを呼ぶことは禁止されていたとのこと。犬の名前を呼んでしまうと、犬が「飼い主が苦痛を感じているから助けた」のか、「飼い主に従順であろうとする行動をした」のかが判断できなくなってしまうためです。
多くの犬は苦痛を訴える飼い主の声にストレスを感じ、箱の周囲で鳴いたり吠えたりしたとのこと。
箱のフタは犬が頭を突っ込むことで動かせるようになっており、フタを外すと「犬は飼い主の救助に成功した」と見なされました。
実験の結果、60匹のうち20匹、つまり全体の3分の1が飼い主を助けることに成功しました。「3分の1の犬が苦痛を訴える飼い主を助けたという結果だけではそれほど印象的ではありませんが、より注意して見るとこの結果は本当に注目に値します」とVan Bourg氏は述べています。
Van Bourg氏が問題にしているのは、「飼い主を助けたい」と犬が思ったとしても、フタを開ける方法がわからない犬は飼い主を救助できないという点。この点を考慮しなければ、実際に飼い主を救助した犬以外にも飼い主を助けたいと思った犬がいた可能性が見過ごされてしまいます。以前の研究では深く調査されていなかったこの問題を調べるため、Van Bourg氏は同じ犬たちを対象にしてさらなる実験を行いました。
追加の実験では、飼い主がエサを箱の中に入れて、犬がそのエサを取るためにフタを開けるかどうかが調査されました。この実験の結果、フタを開けるのに成功した犬は19匹だったそうで、飼い主が苦痛を訴えた場合よりも少ない数の犬がフタを開けることに成功しました。なお、エサをゲットするのに成功した19匹のうち16匹、つまり84%が飼い主の救出にも成功していたとのこと。
Van Bourg氏は、個々の犬が箱を開ける方法を知っていたのかどうかを理解しなければ、実際に「飼い主を救いたいと思った犬」の割合を評価できないと指摘。「犬の3分の2がエサを取り出すために箱を開けなかったという事実は、飼い主を救出するためにも単なるモチベーションに加えて別の能力が必要だったことを、かなり強く示しています」「ほとんどの犬はあなたを助けたいと思っていますが、救助するには彼らがその方法を知る必要があります」と、Van Bourg氏は述べました。
また、別のテストでは飼い主が箱の中に入り、叫び声ではなく「雑誌を読み上げる声」を小さな声で発しました。
この実験でフタを開けた犬の数は16匹であり、助けを呼んだテストより4匹少なくなりました。このように、必ずしも飼い主が苦痛を訴えていなくても犬は救助を行ったものの、苦痛を訴えると救助に成功する犬の数が増えた点は、犬が単に「飼い主の近くにいたいからフタを開けたわけではない」ことを示しています。
研究チームはそれぞれの実験で犬が見せたストレス反応についても調査しており、鳴き声を上げたり歩き回ったり、吠えたりといった行動について観察しました。その結果、飼い主が苦痛を訴えていると犬は非常に大きなストレスを感じた一方で、飼い主が雑誌を読み上げている場合ではあまりストレスを感じないこともわかったとのこと。
さらに、飼い主が苦痛を訴えるテストでは、2回目、3回目の試行でも犬のストレスが減少しなかったのに対し、飼い主が雑誌を読み上げるテストでは試行を繰り返すと犬のストレスが減少することも判明。雑誌を読み上げるテストでは犬が環境に順応したものの、苦痛を訴えるテストだと犬は環境に慣れることができず、ストレスを感じてしまうとVan Bourg氏は指摘。これらの観察結果は、飼い主から犬へ「感情が伝染していること」を示すとのこと。
Wynne氏は今回の結果を受けて、「この研究で興味深いのは、犬が本当に人々のことを気にかけていることを示したということです。トレーニングを受けていなくても、多くの犬は苦痛を受けている人を助けようとします。そして犬が救出に失敗した時、私たちは犬が動揺している様子を見ることができました」「今後は、救助することによって犬が飼い主の近くに行ける場合と、救助しても犬は飼い主に近づけない場合についても調査したいです」と述べました。
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