60年前に打ち上げられた1基の人工衛星から現代の天気予報は始まった
地球の大気で起こるさまざまな現象を学ぶ「気象学」の研究を進めることで、人類は家にいながらにして明日やあさっての天候を知ることができるようになりました。気象学が大きく進歩したのは70年以上前に作られたコンピューターと60年前に打ち上げられた1基の小型衛星がきっかけだったと、IT系ニュースメディアのArs Technicaが解説しています。
Modern meteorology was born 60 years ago today | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/04/modern-meterology-was-born-60-years-ago-today/
1960年4月1日、フロリダのケープカナベラル空軍基地から重さ122.5kgの小型衛星「タイロス1号」が、地上からおよそ650kmの軌道に打ち上げられました。タイロス1号は、アメリカの家電企業であるRCAによって設計されたテレビ赤外線観測衛星であり、世界初の気象衛星です。
by NASA on The Commons
タイロス1号は直径1.1メートル、高さ0.5メートルほどの円柱形の人工衛星で、104度の広角カメラと12度の望遠カメラを搭載しています。9000枚以上のソーラーパネルによる太陽光発電で電力を供給しながら、宇宙から地球の雲と天気のパターンをモニターすることに成功。78日間にわたって運用され、およそ2万3000枚の写真を撮影しました。
以下は、タイロス1号が宇宙で初めて撮影した画像。丸い地球を白い雲が覆っている様子がよくわかります。
そして、タイロス1号が宇宙から撮影した熱帯低気圧の画像が以下。
「気象衛星で宇宙から天候を観測する」という方法はタイロス1号で確立されましたが、衛星から送られてきたデータを基に計算しなければ、未来の天候を予測することはできません。しかし、その計算量は人間が紙と鉛筆を使うにはあまりにも膨大です。
偶然にも、膨大な計算をこなすために必要なコンピューターは1930年代にはすでに開発が始まっていました。世界で最初に開発された汎用電子式コンピューターは数学者のジョン・フォン・ノイマンが開発に携わったENIACといわれており、ノイマンはENIACを使った数値解析のテストとして気象予報の研究プロジェクトを立ち上げました。1950年代半ばには、ENIACで定期的に数値予測が行えるようになったそうです。
by Dennis Sylvester Hurd
1980年代になると、気象衛星による観測と、そのデータを処理する数値モデルの研究がより進みました。気象衛星のデータを24時間体制で観測できるようになったことで予測のレベルが飛躍的に向上。現代では、スマートフォンのアプリで5日後の天気を、1980年当時の「次の日の天気予報」と同等の精度で予測できるまで進化したとのこと。
ArsTechnicaは「私たちの日常生活の多くが、現代の天気予報の予測精度によって静かに支えられています。ハリケーンや高波の警報だけではありません。気象データに基づいた意思決定は至る所で行われています」と語り、現代気象学の誕生への祝辞を述べました。
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