抽象画に「深いことを言ってるっぽく見えるデタラメなタイトル」を付けると評価が高くなるという研究結果
具体的な対象を描かない抽象画は時に「訓練したチンパンジーでも描ける」といった批判にさらされることもあり、実際にチンパンジーの「コンゴ」に描かせた抽象画も取り引きされています。ウォータールー大学の研究チームが発表した研究では、「抽象画にコンピューターが生成した『深いことを言ってるように見えるデタラメなタイトル』を付けると、鑑賞者が抽象画をより高く評価する」と報告されました。
Bullshit Makes the Art Grow Profounder by Martin Harry Turpin, Alexander Walker, Mane Kara-Yakoubian, Nina N. Gabert, Jonathan Fugelsang, Jennifer A. Stolz :: SSRN
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3410674
Abstract art with “pseudo-profound” BS titles seen as more meaningful | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/03/abstract-art-with-pseudo-profound-bs-titles-seen-as-more-meaningful/
ウォータールー大学で心理学を研究するMartin Turpin氏らの研究チームが発表した論文は、「Bullshit Makes the Art Grow Profounder(デタラメが芸術を深遠なものにする)」という非常に挑発的なタイトルです。これは特に抽象芸術に詳しい人々から強い批判にさらされかねないタイトルですが、研究チームは決して抽象芸術を軽んじているわけではないと主張しています。
研究チームは抽象画に「コンピューターが生成した深遠なことを言ってるように見えるタイトル」を付け、このタイトルが抽象画を見る人の判断にどのように影響するのかを研究しました。「デタラメが芸術を深遠なものにする」という論文のタイトルは、研究の中で抽象画に付けられたタイトルを指して「デタラメ」と述べていますが、研究チームはこの「デタラメ」には世間一般で使われているような否定的意味合いが含まれていないと指摘。
論文で使われている「Bullshit(デタラメ)」という用語について、研究チームはあくまでも技術的に「人間が考えて作ったのではなく、コンピューターが生成したもの」という意味で使っているのであり、「偽物」「真実ではない」「無意味」といった意味合いは含まれていないとのこと。タイトルから意味を見いだすのは作品の鑑賞者であり、タイトルが生成される過程に人間の意思や思考が介在しなくても、「そのタイトルに意味がない」という理由にはならないと研究チームは補足しています。
「デタラメ」に関する研究に関しては、「デタラメにだまされやすい人々の傾向を分析し、フェイクニュースや中身のない言説から人々を保護する方法を模索する」という陣営と、「デタラメが人間社会に及ぼす実際の効果について調査する」という陣営の2つがあるとのこと。Turpin氏の研究チームは後者に属するそうで、今回の研究では「人々が抽象芸術を理解しようとする上で、デタラメがどのように役立つのか?」という疑問について調査を行いました。
1つ目の実験では、研究チームは被験者として200人の学部生を募集し、コンピューターで生成されたさまざまな抽象画を鑑賞してもらいました。抽象画にはタイトルが付けられていないものと、コンピューターが生成した「深いことを言ってるように見えるデタラメなタイトル」が付けられたものが含まれており、被験者は各抽象画がどれほど芸術的に豊かであるかを評価したとのこと。この実験では、タイトルがない作品と比較して、デタラメなタイトルが付けられた作品を被験者が「より深遠な意味を持っている」と高く評価することがわかりました。
2つ目の実験では218人の大学生が募集され、「ありふれたタイトル」と「深いことを言ってるように見えるデタラメなタイトル」が付けられた抽象画を評価してもらいました。「抽象画の価値を高める効果がデタラメなタイトルに特有のものであるならば、デタラメなタイトルと抽象画の組み合わせだけがより深遠であると評価されるはずです」と研究チームは指摘。実際、被験者は「ありふれたタイトル」が付けられた抽象画よりも、「深いことを言ってるように見えるデタラメなタイトル」が付けられた抽象画をより深遠だと感じたとのこと。
3つ目の実験では、「人間の芸術家が描いた抽象画」と「コンピューターが生成した抽象画」を混ぜて同様の実験を行いました。この実験で、人間の芸術家が描いた抽象画とコンピューターが描いた抽象画において、「深いことを言ってるように見えるデタラメなタイトル」が価値を高める効果に違いが見られなかったことから、人間が描いた抽象画にも1つ目や2つ目の実験結果が適用できることが証明されました。
最後の実験で、Turpin氏の研究チームは「コンピューターが生成した深いことを言ってるように見えるデタラメなタイトル」の中に「実際に国際芸術の場で使用される『International Art English(国際芸術英語)』を使ったタイトル」を混ぜて、抽象画の評価が変わるかどうかを調査しました。
国際芸術英語には、「potential」などの形容詞を「potentiality」という名詞として使ったり、「internal psychology(内部心理学)」「external reality(外部現実)」のように一見すると意味が重複する用語があったり、「the culmination of many small acts achieves mythic proportions(多くの小さな行為の集大成が神話的プロポーションを達成する)」という抽象的な比喩を使ったりと、一般の人々にとっては理解が難しいものが多くあります。
研究チームの予想通り、被験者は「深いことを言ってるように見えるデタラメなタイトル」と「国際芸術英語を使ったタイトル」が付けられた抽象画を同様に、他の平凡なタイトルが付けられた抽象画より高く評価しました。
研究チームは「抽象画に限らず、厳密かつ具体的な基準を用いて客観的な評価が行われないあらゆる分野においては、成功したかどうかは他人をどれだけ感動させたかによって決定されます」と指摘し、デタラメなタイトルを付けることに問題はないと主張しています。Turpin氏は深遠っぽく見えるタイトルを抽象画に付けることで、芸術作品の金銭的価値が上昇する可能性があると考えているそうです。
被験者が全て学部生だった点が研究結果をゆがませる可能性も指摘されていますが、共著者のアレックス・ウォーカー氏はデタラメなタイトルが抽象画にもたらす効果が繰り返し再現されたと主張し、「今回の効果は非常に信頼性が高く堅牢だと思います」とコメント。将来的には、芸術の専門知識を持つ鑑賞者にも同様の効果がみられるのかといった点も研究できるとみられています。
ウォーカー氏は自分たちの研究が否定的な見方をされがちな点について、「人々は『デタラメ』に否定的な意味を持っているため、私たちが芸術に対して否定的だと考えます。しかし、私たちが話す文脈における『デタラメ』は否定的な意味合いを持つ必要はないと明確に言っておきます」と反論。また、たとえ「デタラメなタイトル」が付けられた芸術作品を見た人が作品から深遠さを感じ取ったとして、その主観的な感想や感動は何も間違っていないと主張しました。
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