サイエンス

「がんの全ゲノム」を分析する史上最大の研究により腫瘍の成長を促す遺伝子変異の詳細が明らかに

by iLexx

自律的で制御されない腫瘍が組織に浸潤・転移するがんは世界中の人々を死に至らしめており、研究者らは長年にわたってがんの治療法や早期発見法について研究してきました。世界中の研究者が協力して行った、がんのゲノムを包括的に分析するPancancer Analysis of Whole Genomes(PCWAG)というプロジェクトによって、かつてないレベルで腫瘍の成長に関連する遺伝子変異の詳細が明らかになったと報告されています。

Pan-cancer analysis of whole genomes | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-020-1969-6

Global genomics project unravels cancer’s complexity at unprecedented scale
https://www.nature.com/articles/d41586-020-00213-2

Massive cancer genome study reveals how DNA errors drive tumor growth | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2020/02/massive-cancer-genome-study-reveals-how-dna-errors-drive-tumor-growth


がんは細胞の遺伝子変異によって腫瘍が自律的な増殖を始め、正常な組織にさまざまな問題を引き起こす病気です。そのため、がんのゲノム全体を包括的に分析することは、ヒトのゲノムの全塩基配列を解析するヒトゲノム計画が完了して以降、がん研究者たちの大きな目標だったとのこと。

これまでに行われてきたがんのゲノムに関する研究では、手法の容易さやコストの面からタンパク質をコードするエクソン領域に焦点が当てられてきましたが、エクソン領域はがんのゲノムのうちわずか1%を占めるに過ぎません。エクソン領域のみを対象にした分析では、がんの成長を促進する可能性がある多くの可能性が見過ごされてきたと研究チームは指摘しています。

PCWAGは全世界から1300人の研究者が協力し、全38種類のがんの2658個に及ぶサンプルについて、全ゲノムを解析するという壮大なプロジェクトです。10年以上にわたって続けられたPCWAGの取り組みについて、「これらの研究で際だったのは、体系的にこれほどの研究を行うことの難しさです」と、ミシガン大学のがん遺伝学者であるMarcin Cieslik氏は述べました。

by National Cancer Institute

PCWAGでは広範なデータの品質管理およびデータ処理、遺伝子変異を検出するために行われるパイプライン処理の大規模で体系的な実証実験などが必要とされたとのこと。複数のデータセンターに分散した膨大なデータとそれを処理する計算能力が必要となったPCWAGは、クラウドコンピューティングの発達によってプロジェクトが前進したと報告しています。

また、PCWAGの研究チームはがんのゲノム解析を行っただけでなく、各グループがデータベース内のデータを自由に分析できる体制も整えました。オンタリオがん研究所Lincoln Stein氏は、がんの成長に関する既存の考えを塗り替える多くの新しい発見があったとコメントしています。

たとえば、腫瘍の約5分の1において、染色体の多くの箇所で一度に崩壊と再編成が行われる「クロモスリプシス」と呼ばれる奇妙な現象が起きていることが判明しました。

さらに、遺伝子変異を起こすことでがんの発生・進展において直接的に重要な役割を果たす「ドライバー遺伝子」の変異が、各腫瘍で平均して4~5個確認されました。エクソン領域に限った分析では、ドライバー遺伝子の変異が見つかったがんは全体の67%ほどでしたが、PCWAGでは全体の95%において発見されたとのことで、従来の考えより多くのがん患者がドライバー遺伝子を標的にした薬に適合することが示唆されたと研究チームは述べています。

by ktsimage

既にイギリスを含む一部の国々では、がん患者に対する適切な治療を行うため、個々の患者ごとの腫瘍のゲノム解析が進んでいます。PCWAGの研究チームは10万人の患者の臨床記録とゲノムデータを保管し、医師が患者の腫瘍が持つゲノムに基づいた最良の治療法を決定するための「知識バンク」を作成し始めているとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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