メモ

陸上界を席巻するナイキの厚底シューズ「ヴェイパーフライ」はいかに他を圧倒しているのか?


2020年の箱根駅伝には21チーム・210名のランナーが出場しましたが、8割強がナイキの厚底ランニングシューズである「ヴェイパーフライ」シリーズを着用していたこと、そして往路の区間賞受賞者全員が同シリーズのシューズを履いていたこと話題となりました。このヴェイパーフライシリーズの流行は日本だけでなく全世界で起きているもので、非公式ながらフルマラソンで人類初の2時間切りを達成したエリウド・キプチョゲ選手の記録も、ヴェイパーフライシリーズの最新モデルである「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」の試作モデルを着用して叩き出したものです。そんなヴェイパーフライシリーズはあまりにも高性能過ぎるため、世界陸連が競技大会での使用を禁止することを検討しているとまで報じられることとなっています。

ナイキ ヴェイパーフライから、最新のヴェイパーフライ ネクスト%が登場。. Nike.com JP
https://www.nike.com/jp/running/vaporfly

ナイキのヴェイパーフライシリーズは、分厚いソールが特徴的なランニングシューズ。非常に軽いだけでなく、分厚いソールが高い反発性を実現することで、軽やかかつスムーズな走り心地を生み出してくれるとのこと。分厚いソールの中にはカーボンファイバープレートが埋め込まれており、これが高い弾力性をもたらし、ランニングをサポートしてくれるそうです。


ヴェイパーフライシリーズの最新モデルである「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」をゲットして、実際に着用して走ったり跳んだりバラバラに分解したりしながら、その秘密を解き明かそうというムービーも公開されています。

Cutting Open The Nike ZoomX Vaporfly Next% (You won't believe what's inside!!) - YouTube


動画を投稿したのは、記事作成時点ではYouTuberとして活動している元陸上競技選手のニック・シモンズさん。800メートルおよび1500メートルという中距離を専門としてきた選手で、全米選手権では800メートルで6度王者となっており、オリンピックにも2度出場したことがあるという人物です。

そんなシモンズさんが、「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を購入し、実際に履いてテストし、最後はバラバラに分解してその秘密を探るというのが今回のムービーの内容です。


まずは「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を購入するところから。シモンズさんはまだ世間をにぎわすヴェイパーフライシリーズを見たことがなかったそうで、ナイキの販売店舗で店員さんに直接聞き、「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」をゲット。


続いて、実際に「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いて走ってみます。シモンズさんはホノルルマラソンを約3時間で完走したことがあるそうで、その際の平均ペースと同じ速度でトレッドミル上を実際に走るテストを実施。なお、フルマラソンを走るにはあまりにも時間と労力がかかるということで、走行距離はちょうど1マイル(約1.6km)に設定されています。

実際に「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いた率直な感想として、シモンズさんは「クッション性が高く、非常に軽い!」と語っています。


また、比較用としてフランスのシューズメーカーHoka One Oneの厚底ランニングシューズである「CLIFTON 4」でも同距離を同ペースで走っています。


走行距離と心拍数情報を合わせて表示して、ランニングがスタート。なお、最初にCLIFTON 4を履いて走り、次に「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いて走ったため、シモンズさんは2度目の走行時は「少し疲れていた」と語っています。そのため、確かにランニング開始時の心拍数は「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いている際の方が若干高めになっています。


しかし、走行距離が200メートルを超える頃には、CLIFTON 4着用時の方が心拍数が高くなっています。


シューズが地面に着地する瞬間をスローモーションで撮影した様子。着地の瞬間にCLIFTON 4のソール部分がグッと沈み込む様子がよくわかり、こちらのシューズも厚底でクッション性抜群であることがよくわかります。


しかし、「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」はさらにクッション性が上であることがわかります。着地の瞬間にソールが沈み込むだけでなく、「ポヨン」という擬音がピッタリなくらい全体が弾む様子がスローモーションだと確認可能です。


約1500メートルを走った後も、CLIFTON 4着用時の方が心拍数が高めでした。ほぼすべての行程において、「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」着用時の方が心拍数が2、3BPM低いという結果に。


たったの1マイル試し走りしただけではあるものの、1マイル辺り2BPMの心拍数の差がフルマラソン(42.195km=26マイル385ヤード)分続くとすると、「非常に大きなアドバンテージになるのではないか」とシモンズさん。また、実際に走った感想として「力学的な利点を感じざるを得ない」とも語っています。


続いて、2つのシューズを履いて垂直跳びの記録を計測。それぞれのシューズを履いて3度記録を計測します。最初はCLIFTON 4を履いてジャンプ。


3度の記録測定で最も高かった記録が「22インチ(55.88cm)」。


続いて「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」着用時の垂直跳びの記録を計測。


1度目のジャンプでいきなり「22インチ」を記録し、2度目のジャンプであっさり「24インチ(60.96cm)」を叩き出しました。


続いて、ナイキの出願特許を元に「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を分解していきます。まずはヒモ部分ですが、これはごくごく普通のヒモだそうです。


続いて足全体を包み込むアッパー素材(ピンク色)部分。アッパー素材は非常に耐久性に優れているそうですが、ここにも着用者の走りを改善するような特徴は存在しないそうです。


アッパー素材をカッターでカット。


かかと部分にはクッション性のあるパッドが入っており、これによりシューズ全体が足にフィット&固定できるようになっている模様。


シューズタン部分はとても薄め。


接着剤で固定されているソールの一番上をベリベリ剥がします。


この部分も一般的なものと変わらない模様。


ソールの下にはステッチがあるのでこれをカッターで切ります。


すると、「ズームXフォーム」と呼ばれる新開発のミッドソールが登場。非常にクッション性のある素材だそうです。また、このズームXフォームを素手で押し込むと、奥にカーボンファイバー製のプレートの存在を感じられるとのこと。


シモンズさんによるとカーボンファイバープレートは「とても薄く見えるが、非常に耐久性があり、カッターを入れるのは難しい」とのこと。そんなわけで、カッターをノコギリに持ち替えて「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を真っ二つに切断。


白色のソールの真ん中に黒色のプレートが挟み込まれていることがわかります。これがヴェイパーフライシリーズの高反発性を実現する核となるカーボンファイバープレートです。


シモンズさんは「軽量でありながら頑丈で、物理的にランナーをサポートしてくれるというシューズに、非常に高価なカーボンファイバーが使われていることを踏まえれば、(ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%の)250ドルという定価(日本では税込3万250円)に驚きはありません」と語っています。

さらに、ニューヨーク・タイムズはヴェイパーフライシリーズがいかにランナーのパフォーマンスに影響を与えているか統計的に分析しており、「これまで考えられてきたよりも大きな影響をランナーに及ぼしている可能性がある」と指摘しています。

Nike’s Fastest Shoes May Give Runners an Even Bigger Advantage Than We Thought - The New York Times
https://www.nytimes.com/interactive/2019/12/13/upshot/nike-vaporfly-next-percent-shoe-estimates.html


ニューヨーク・タイムズは2014年以降に開催されたフルマラソンおよびハーフマラソンの100万件以上のデータを分析。なお、「ナイキ ヴェイパーフライ 4%」と「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いた走者のタイムに有意な差はみられなかったため、2つをまとめて「ヴェイパーフライを着用したランナー」と表現しています。

なお、分析対象となったレースの数を年度別にまとめると以下のグラフの通りになります。最も多いのは2019年度に行われたレースのデータです。


ニューヨーク・タイムズは「BROOKSやSAUCONY、ニューバランス、Hoka One One、アシックスといった他ブランドからも同様の(厚底)シューズが市場に投入されていたり、同様の機能のシューズの発売が予定されていたりします。これらのシューズがヴェイパーフライと同じ利点、もしくはさらに大きな利点をもたらす可能性がありますが、ほとんどの場合は効果を測定するのに十分な数のデータが存在しません」と記しています。

ヴェイパーフライシリーズが世に出たのは2017年中頃で、それ以降、特に優秀なタイムを記録しているランナーの多くがヴェイパーフライシリーズを着用するようになっています。実際、2019年の最後の数カ月には、フルマラソンで3時間を切る優秀なタイム保持者の約41%がヴェイパーフライシリーズの着用者であることが判明しています。

以下のグラフは、フルマラソンで3時間を切る優秀なランナーのヴェイパーフライシリーズ着用率を示したグラフ。2017年中旬の「First publicly available」が、ヴェイパーフライシリーズが一般向けに発売されたタイミング。「Vaporfly」が「ナイキ ヴェイパーフライ 4%」、「Next%」が「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」を示しています。


以下のグラフは、統計モデルを用いて「マラソン時に着用するシューズを該当するシューズに履き替えた際に、どの程度タイムが速くなるかを推定した結果」を示したもの。タイムが遅くなるものから速くなるものまでさまざまですが、ナイキのヴェイパーフライシリーズは「他の人気シューズでは起きていないような結果が出ている」ことが一目瞭然です。その他のシューズは良くても1、2%程度のタイム改善しか起こしていませんが、ヴェイパーフライシリーズは4%強のタイム改善を起こすと推定されています。


同じレースに2回以上出場したランナーのデータから、「シューズを履き替えた際のタイム変化」を履き替えたシューズ別にまとめたのが以下のグラフ。ヴェイパーフライシリーズとそうでないシューズの差はより明らかなものとなっており、ヴェイパーフライシリーズは約5%もタイムを縮めることに成功しています。


さらに、新しいシューズに履き替えた際のタイムの変化を履き替えたシューズ別にまとめたのが以下のグラフ。このデータでもヴェイパーフライシリーズのタイム改善能力は顕著で、他のシューズを大きく引き離す約5%のタイム改善を記録しています。


シューズを履き替えた際の、自己ベスト更新のチャンスを履き替えたシューズ別にまとめたのが以下のグラフ。その他のシューズは40~65%ほどの確率で自己ベストを更新するそうですが、ヴェイパーフライシリーズは70%超という高い確率で自己ベストを更新できる模様。


マラソンのコースは多種多様で、起伏の激しいコースもあれば平坦なコースもあります。また、レースのタイミングによっても難度はかなり異なってくるもので、気温や天気も大きくレース結果に影響します。これらのマラソンのタイムに影響するさまざまな要因を考慮しても、ヴェイパーフライシリーズがランナーのタイムを縮めるのに大きな役割を果たしていることは明らかです。

前述の通り、ヴェイパーフライシリーズとその他のシューズの違いは、ミッドソールに挟まれたカーボンファイバープレートです。このプレートについてニューヨーク・タイムズは「ランニング時の各スライドでエネルギーの蓄積および放出を担い、ランナーの推進力をサポートするパチンコあるいはカタパルトとして機能する」と記しています。

なお、ニューヨーク・タイムズがデータ分析に使用したのは、マラソンランナー向けのSNSであるStravaなどのサービスです。同サービスでは各ユーザーの出場したレース情報、最終タイム、着用シューズが公開されており、2014年から2019年12月までの記録だけでフルマラソン57万7000回分と、ハーフマラソン49万6000回分のデータを収集することができたとのことです。

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in メモ,   動画, Posted by logu_ii

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