サイエンス

人間の体温は1800年代から低下していることが判明、その理由とは?

by congerdesign

どうにも気分が優れず「風邪を引いたかも」と思った時、まずは体温計で自分の体温を測る人は多いはず。38度~39度であれば確実に熱があるといえますが、37度前後だと微熱なのか平熱が高いのか微妙なラインであり、判断するためには普段から自分の体温を把握することが重要です。そんな人間の体温が200年前から少しずつ低下していることが大規模なデータから判明したと、スタンフォード大学医学部の研究チームが報告しています。

Decreasing human body temperature in the United States since the industrial revolution | eLife
https://elifesciences.org/articles/49555


Human body temperature has decreased in United States, study finds | News Center | Stanford Medicine
http://med.stanford.edu/news/all-news/2020/01/human-body-temperature-has-decreased-in-united-states.html


温度表記で日常的にカ氏(°F)を用いるアメリカでは、人間の平熱の目安はカ氏98.6度(セ氏37.0度)とされています。これに対して、スタンフォード大学医学部のジュリー・パーソンネット教授は「昔から『平熱はカ氏98.6度』が常識と教わって育ちましたが、それは間違っています。私たちの体温は誰かが考えて定めた温度ではありません」と否定しています。

そもそも、カ氏98.6度を平熱とする考え方は、1851年にドイツのカール・ブンダーリッヒ医師が定めたもの。「平熱時の体温=カ氏98.6度」という基準は150年以上にわたって用いられてきましたが、実際はカ氏97.9度(セ氏約36.6度)であるという研究結果も報告されています。

パーソンネット教授は「カ氏98.6度という数字に平熱が設定されたのは単なる測定誤差やバイアスではなく、歴史的な理由があるのではないか」と考え、過去200年にわたる平均体温の推移を調査しました。

by stokkete

調査対象として、3つの大規模なデータセットが使われました。1つ目は南北戦争北軍の退役軍人の兵役記録・医療記録・年金記録から抽出された1860年から1940年までのデータで、2つ目は1971年から1974年にかけて行われた第1回国民健康栄養調査(NHANES I)のデータ、3つ目は2007年から2017年にスタンフォード大学付属病院で診療を受けた成人患者のデータだとのこと。ただし、平熱時の温度を計測するため、当時のカルテに「発熱している」と書かれた患者のデータは除かれています。

総計67万7423人分もの体温を分析した結果、2000年代に生まれた男性の平均体温は、1800年代初期に生まれた男性の平均体温よりもセ氏0.59度低いことが判明。また、2000年代に生まれた女性の平均体温は、1890年代に生まれた女性の平均体温よりもセ氏0.32度低いこともわかりました。

以下のグラフは平均体温の推移を線グラフに表したもの。横軸が生年で、縦軸が患者の平均体温です。また、青い線が男性、赤い線が女性で、左のグラフが白人のデータ、右のグラフが黒人のデータとなっています。いずれにおいても生年が後になるにつれて、平均体温も下がっていることがわかります。


研究チームは、体温計の精度向上と共に計測結果が低くなった可能性も考えたそうですが、同時代で同等の技術を使っているはずの各データセット内でも年々体温が低下する傾向が見られたため、誤差やバイアスによる可能性を否定しています。

平均体温が年々低下した原因について、研究チームは「医療の進歩、衛生状態の改善、生活水準の向上によって、過去200年で公衆衛生が劇的に改善したからではないか」と推測しています。人がウイルスや菌に感染すると、体内の免疫システムが機能しますが、この時に免疫細胞から産生されるタンパク質のサイトカインには体温を上昇させる働きがあります。つまり、衛生環境が悪かった200年前は人体各部で炎症を起こすことで平均体温がやや高くなっていたというわけです。

また、セントラルヒーティングやエアコンなど、部屋の気温を自由自在に調整できるようになったことで、生理現象の一環として体温が不規則に上がることが減ったことも体温低下の一因だと研究チームは考えています。

by Creators Collective

パーソンネット教授は「生理学的に、現代の私たちは過去と全く異なります。家の温度や微生物との接触、アクセスできる食べ物など、私たちの住む環境は大きく変わりました。私たちは生理学的に進化を遂げているのです」と語りました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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