インターネットがほぼ完全に遮断されたイランでは何が起こっているのか?
2019年11月17日にイランで、インターネットがほぼ完全に遮断されるという深刻な通信障害が発生したことが分かりました。折しも、イランではガソリン価格値上げに抗議する大規模なデモが発生しており、今回のインターネットの障害にはイラン政府が関与しているとの見方が広がっています。
Internet disrupted in Iran amid fuel protests in multiple cities - NetBlocks
https://netblocks.org/reports/internet-disrupted-in-iran-amid-fuel-protests-in-multiple-cities-pA25L18b
Protests grip major Iran cities over gas prices; 1 killed
https://apnews.com/2062e5a7e6b3447d9af1b42141661f01
Iran supreme leader warns 'thugs' amid gas price protests
https://www.cnbc.com/2019/11/17/iran-supreme-leader-warns-thugs-amid-gas-price-protests.html
Iran Blocks Nearly All Internet Access - The New York Times
https://www.nytimes.com/2019/11/17/world/middleeast/iran-protest-rouhani.html
イラン政府は2019年11月15日、事前の通告もなしにガソリン価格を最大で3倍にまで引き上げました。これを受けて、11月16日から首都テヘランを中心としたイラン各地で大規模な抗議デモが発生しており、一部ではデモ隊が治安部隊と衝突する事態にまで発展しています。デモの勢いはその後も急速に激化しており、11月17日までに少なくとも12人が死亡・数百人が負傷する人的被害や、銀行や店舗などが破壊されたり放火されたりする被害も発生しているとのこと。これにより、逮捕者はすでに1000人以上にもおよんでいるとの報道がなされています。
イランの最高指導者であるアリー・ハーメネイー氏は、11月17日に国営テレビで放送された演説の中で、「破壊行為や放火はイラン国民のすることではありません」と述べて一部で暴徒化したデモ隊を非難し、「治安部隊に対して、自らの任務をまっとうし、イラン国民を暴力的なデモ参加者から守るよう指示しました」と発表したとのことです。
そんな中、インターネットの遮断を監視するNGOであるNetBlocksが、「市民による抗議が続くイランの複数の都市でインターネットが遮断された」と発表しました。
Confirmed: #Iran is now in the midst of a near-total national internet shutdown; realtime network data show connectivity at 7% of ordinary levels after twelve hours of progressive network disconnections as public protests continue #IranProtests ????
— NetBlocks.org (@netblocks) November 16, 2019
???? https://t.co/1Al0DT8an1 pic.twitter.com/u6bVsfvOOm
NetBlocksによると、インターネットの接続障害は11月15日の夕方からイラン第2の都市マシュハドで始まったとのこと。その後同日の協定世界時21時15分(現地時間の24時45分)には通信障害の範囲と深刻度が拡大。11月16日の14時30分(現地時間の18時)にはイランの主要な通信キャリアがほぼ完全にオフラインになりました。
その後24時間が経過しても、依然としてイランでのインターネット通信は平時の5%程度と低い状態が続いており、インターネット障害の長期化が懸念されています。
Update: It has now been 24 hours since #Iran implemented a near-total internet shutdown following hours of partial blackouts amid widespread protests.
— NetBlocks.org (@netblocks) November 17, 2019
The ongoing disruption constitutes a severe violation of the basic rights and liberties of Iranians⏱
????https://t.co/1Al0DT8an1 pic.twitter.com/i7sudrB3I4
イランの半国営報道機関であるイラン学生通信社(ISNA)が接触した情報筋によると、今回の全国的なインターネット障害はイラン国家安全保障最高評議会の決定と指示によるものだとのこと。NetBlocksは「ネットワークの混乱は、イラン政府がデモへの参加やデモに関する報道を制限するために行ったものだと理解されています。これは、イランの人々の基本的な権利と自由の重大な侵害です」と述べて、イラン当局によるインターネットの遮断を批判しました。
イラン人ジャーナリストで政治活動家のエルハム・サルマニ氏は、アメリカの大手新聞社ニューヨーク・タイムズの取材に対し「イラン政府は自由な考えとイデオロギーにうまく対応できなかったので、自由に使える唯一のツールである暴力に頼ろうとしています」とコメント。検察庁から脅迫を受けたことや、サルマニ氏の夫の携帯電話やPCが押収されたことを明かしました。
ホワイトハウスは公式サイト上で「アメリカはイラン国民を導くことになっている政権に対する、イラン人の平和的な抗議を支持するとともに、デモ隊に対して使用されている武力と厳しい通信制限を非難します」との声明を発表を発表しました。
一方、ハーメネイー氏は「私自身は専門家ではないし、ガソリン価格値上げについてはさまざまな意見があることも承知していますが、政府を構成する立法府・行政府・司法府が合意した決定は尊重しなければならないことになっています。今回、政府は専門家の意見を元にガソリン価格値上げを決定したので、当然これは実現されるべきです」と述べて、政府によるガソリン価格の値上げを支持し、決定を覆さない姿勢を明確にしています。
by Khamenei.ir
また、アメリカの大手通信社であるAP通信は「デモは、ハサン・ロウハーニー大統領が『イランの貧しい人々に対する配給の財源を確保するために、ガソリン補助金を削減する』という発表を機に発生しました」と報道しており、アメリカが中心となって行われている対イラン制裁に起因する経済難が、今回の問題の引き金になったことを指摘しました。
ガソリン補助金の削減の影響で、イランのガソリンの最低価格はそれまでの1.5倍にあたる1リットル当たり1万5000リヤル(約39円)に跳ね上がりましたが、それでもかなり安価です。これについてAP通信は「世界で4番目の石油埋蔵量を誇るイランでは、安価なガソリンは生得権だとみなされているため、ガソリン価格の値上げにつながるこの決定はイランの人々を動転させ、デモを引き起こしました」と述べています。
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