ウェブブラウザ「Brave」の始まりとは?
ページ内の広告を自動ブロックするオープンソースのウェブブラウザ「Brave」はどのようにして生まれたのか、開発メンバーが集まったところから、実際に開発が進められていくまでの過程を、共同創業者で最高技術責任者(CTO)のブライアン・ボンディ氏が明かしています。
The road to Brave 1.0
https://brave.com/the-road-to-brave-one-dot-zero/
目次:
◆「Brave」の始まり
◆ブラウザ名「Brave」はどのようにして決まったのか?
◆ロゴの考案
◆ブラウザの構築
◆BATの理念
◆「Brave」の始まり
もともとMozillaに勤務していたボンディ氏は、2013年10月に開催されたMozillaサミットで、カーンアカデミーでの新しいプロジェクトに誘われました。この仕事に興味を持ったボンディ氏は、Mozillaを去ることを決意します。
このMozillaサミットの最終夜、ボンディ氏はMozillaを去る前の記念に、当時MozillaのCTOだったブレンダン・アイク氏との写真を撮ってもらいました。「アイク氏と一緒に写真を撮れる機会はもう二度と巡ってこないだろう」という考えからですが、アイク氏に写真をお願いする勇気を出すには一晩かかったそうです。
カーンアカデミーに勤務していたボンディ氏のもとに、2014年8月、アイク氏からメールが届きました。その中身は、2014年4月にMozillaを離れたアイク氏が立ち上げる予定のスタートアップへの参加呼びかけでした。
このとき、アイク氏から送られてきた「新しいウェブブラウザ」に関するアイデアが以下のもの。まだ名前は決まっていませんでしたが、「Brave」の基本的な考えはこの時点でできあがっていました。
・ユーザーの追跡を許可しない。
・ユーザーは自分のデータを所有する必要がある。
・悪いものをブロックすることで、ページの読み込み時間を短縮し、帯域幅を削減する。
・サイト運営者が暗号通貨を介して支払いを受けることを許可し、ブロッキングによる収益の損失を置き換える。
・プライバシー保護広告に注意を払うために、ユーザーが暗号通貨のマイクロペイメントを介して支払いを受けることを許可する。
ボンディ氏とアイク氏は4カ月にわたって議論を重ね、「何を構築するか」を具体化させていきました。ボンディ氏は、過去にゼロから新しいウェブブラウザを作成した経験から、インストーラーがどのように機能するか、更新がどのように機能するか、署名がどのように機能するのか、どれくらいの費用がかかるか、どれくらい時間がかかるかについてをアドバイスしたそうです。
数カ月かけての資金調達ののち、ボンディ氏らは2015年5月にプロジェクトを開始しました。カーンアカデミーを辞めたボンディ氏は、プロジェクトの準備が整うまでメディアの注目を集めないよう、周囲にアイク氏と共同で会社を設立したことを話さず秘密裏に進めました。アイク氏の広い人脈により、技術者の雇用はスムーズに進み、優秀な人材が即座に採用され、優れたトップアドバイザーが集まりました。
◆ブラウザ名「Brave」はどのようにして決まったのか?
社名とウェブブラウザの名前を決めるにあたり、「Brave」は初期段階から検討されていた名前の1つで、他には「Gladiator」「Dynamo」「Superware?」「Brownie」といった候補がありました。「Brave」は有力候補だったものの、少し安っぽく聞こえる、自画自賛っぽい、Firefoxのように名前から画像やロゴが連想されにくい、うまく翻訳できないという理由で、一度は採用が見送りになりました。しかし、ボンディ氏らは他のいい案を思いつかず、問題はいくつかあったものの、結局、Braveを会社名およびドメインとして登録することになりました。
しかし、URLとして「brave.com」を登録するつもりが、1979年に結成されたBrave Comboというバンドによって「brave.com」は17年にわたって使用されているということが発覚しました。ボンディ氏らは交渉のため、あらかじめ「bravecombo.com」というURLを購入し、「bravecombo.com」と引き換えに「brave.com」の売却を検討してもらえないかBrave Comboと交渉しました。数カ月におよぶ説得の末、ボンディ氏らは「brave.com」を手に入れることができました。
◆ロゴの考案
次に、ボンディ氏らはBraveのロゴを考えました。請負業者に依頼したラフスケッチを見た結果、稲妻のアイコンにしようという方針でロゴ作成は進みます。
しかし完成したロゴを検討した結果、ボンディ氏らは納得いかず、別の案を考えることになりました。
次のアイデアとして、ライオンを使用したロゴをテーマに、crowdspringでコンテストを開催。
何度も微調整を続け、以下のロゴが候補に挙がりましたが、満足のいくものにはならず却下されてしまいました。
その後、Braveに参加したデザイナーのブラッド・リヒター氏がロゴ作成を担当することになり、微調整の末、「ライオンの顔」をモチーフにしたロゴが完成しました。
◆ブラウザの構築
BraveのUIはReactとReduxを使用してゼロから制作されました。メニュー、ドロップダウンリストなどの基本的なプラットフォームを構築するのに数カ月かかりましたが、資金面の問題から、使える時間は7カ月しかありませんでした。当初はGrapheneにより開発を行っていましたが、さまざまな問題によりElectronに移行。約1カ月をかけてElectronによってGrapheneの欠落を埋め、2016年1月20日にBraveはステルスモードを終了し、世界に共有されました。
しかし、Electronを用いていると、Chromiumがアップグレードするたびに大規模なアップデートが必要になることが判明しました。6週間フルタイムで開発にあたる人員が2人必要となるほどの労力が必要になり、Chromiumのアップグレードが重なるにつれて問題は深刻になっていきました。解決策として、Chromiumの主要なアップグレードに基づいてリベースしやすくなる方法で構築されたChromiumの新しいプロジェクト「Brave Core」の開発を開始しました。Brave CoreによりChromiumのアップグレードを迅速に行うことが可能になり、アップグレードに伴うバグはほとんど発生しなくなりました。iOS版では、Web互換性と、Appleが修正できない可能性のあるバグのために、Firefox iOSを参考に、Brave Shieldsに必要な保護を行うための機能を再追加していったそうです。
◆BATの理念
Braveは2017年5月31日に、クリエイターの活動をサポートするためのトークン「Basic Attention Token(BAT)」を公開しました。BATの基本的な考え方は以下の通り。
・ユーザーがウェブサイトからトラッカーと広告をダウンロードするたびに、ウェブサイトの管理者に収益が発生します。しかし、ユーザーが広告表示のためにプライバシーを侵害される必要はないと考えています。
・広告発信者はターゲットを絞っており、広告詐欺のせいで無駄な支出をしています。広告発信者はもっといい取引ができる必要があります。
・ユーザーは、Braveを含む第三者に閲覧履歴を見られたり追跡されたりすることなく、匿名性を保持したうえで広告収益を得るべきです。
「企業として、私たちは、私たち自身が作成したものに満足し、誇りに思っています。Brave 1.0があるのは、何百人もの人々と何千人ものコミュニティメンバーの熱意と努力のおかげです」とボンディ氏は語っています。
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