生き物

なぜアリの行列は渋滞して詰まってしまわないのか?

by SandeepHanda

大量の個体でコロニーを形成するアリは、見つけたエサを協力して巣穴に運ぶために長い行列を作り、規則正しく行進します。時には行列の密度が非常に高くなることもあるのに、なぜアリの行列が渋滞して詰まってしまわないのかという疑問について、研究者らが実験と観察を繰り返しています。

Experimental investigation of ant traffic under crowded conditions | eLife
https://elifesciences.org/articles/48945

Study: Ants are “immune” to traffic jams | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/10/study-ants-are-immune-to-traffic-jams/


過去10年近くにわたり、アリの集団行動について数多くの研究がされてきました。2008年の研究では、研究者らは実験室内に作ったアリの巣穴と甘い食物源の間を、高速道路のような専用通路で接続しました。アリたちが巣穴と食物源の最短距離を見つけて行列を形成した後、通路は人間社会の高速道路と同じく混雑し始めましたが、通路が詰まり始めると食物源から巣穴に戻るアリが反対方向からやってくるアリをブロックし、別のルートを見つけるように促す行動が見られたとのこと。

また、2018年にはジョージア工科大学の研究チームが、ヒアリがどのように巣穴のトンネル掘削を最適化しているのかについての研究結果を発表しました。ヒアリのトンネルは非常に狭く、2匹がすれ違う程度の幅しかないそうで、それぞれの個体が好き勝手に掘削作業を行うとすぐにトンネルが詰まってしまいます。

しかし、研究チームがヒアリの掘削作業を観察したところ、ほとんどトンネルが詰まったり渋滞することはなかったとのこと。ヒアリは他のヒアリが掘削作業を行っているところに出くわすと、大人しく引き返して他のヒアリが掘削を行っていない箇所を探しに戻るそうです。また、コロニー全体のヒアリが一斉に掘削作業をするのではなく、全体の30%のヒアリが、作業の70%を行っていることもわかりました。

by fine_plan

そして、新たにトゥールーズ大学アリゾナ大学の研究チームがアルゼンチンアリを用いて行った実験では、個体数が400匹~2万5600匹とさまざまな規模のコロニーの巣穴と食物源を、幅5mm・10mm・20mmというさまざまな広さの通路で接続しました。通路の幅を変更することで一度に通ることのできるアルゼンチンアリの個体数を制限し、行列の密度を制御することができます。

研究チームはさまざまな条件で170回に及ぶ実験を繰り返し、アルゼンチンアリの交通量や行列の進む速度、個体が衝突した回数などのデータを記録しました。一般的に人間の歩行者や車は、通路の占有率が40%を超えると渋滞が始まり、移動速度が遅くなります。ところが、アルゼンチンアリの場合は通路の占有率が80%を超えても交通量が低下する兆候は見られなかったそうで、「アルゼンチンアリは状況に合わせて自らの行動を調整している」と研究チームは指摘しています。

by Pixabay

論文では、「通路の密度が高まると、アルゼンチンアリは局所的に混雑具合を評価し、交通の流れを中断させないように歩く速度を適応させました。さらに、アルゼンチンアリは混雑した通路に侵入することを自制し、通路の許容量を決して超えないようにしていました」と述べられています。

以下の画像ではグラフの横軸が通路の密度を、縦軸が左から交通量・速度・衝突頻度を示し、赤色の線が人間を、青色の線がアリを表しています。人間は密度が一定のラインを超えると交通量が減少し、移動速度も密度の増加に伴って減少し続けている一方、衝突頻度は密度の上昇に伴って増加しています。しかし、アリの場合は密度が上昇しても交通量が低下せず、速度は一定のラインを超えると緩やかに減少し、衝突頻度は一定のラインを超えないという特徴がみられます。これは、アリが密集した状況で自らの行動を調整し、スムーズな交通の流れを維持し続けていることを示しているとのこと。


もちろんアリの社会には「交差する車もいないのに赤信号で止まらなければならない」といった状況はありませんが、研究者はそれ以上に人間とアリの社会構造の違いが大きいと指摘。「交通渋滞は、人々がそれぞれの個人的な目的を追求する人間社会に遍在しています。対照的に、アリたちはコロニーの存続という目的を共有しており、アリたちは協力してエサの回収という行動を最適化することが期待されます」と、研究者は述べています。

「個人的な利益と集団的な利益の対立が人間社会における交通渋滞を引き起こす」という指摘は、以前から行われてきたものです。2008年の研究では、こうした人間社会における無秩序により、通勤時間が全体で30分長くなっていると主張されています。

アリがどのようにして集団的利益を最適化しているのかについて不明な点は多いものの、アリが自身の行動を調整する方法を研究することにより、人間社会の渋滞を減らすことができるかもしれないとArs Technicaは述べました。

by Gellinger

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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