「小さな家に住む」ことが地球環境の保護に役立つ
by Luke Stackpoole
地球温暖化や気候変動に歯止めをかける手段が必要とされており、近年は「肉を食べない」ことが1つの手段として叫ばれています。一方、「小さな家に住む」ことも環境によい影響を与えるという考えがあるということで、研究者が「小さな家は、実際にどのくらい環境に影響するのか」を調査しました。
When people downsize to tiny houses, they adopt more environmentally friendly lifestyles
https://theconversation.com/when-people-downsize-to-tiny-houses-they-adopt-more-environmentally-friendly-lifestyles-112485
過去数十年にわたって、アメリカの住宅は「大きく」なる傾向にありました。1973年の調査ではアメリカの新築の平均サイズは154平方メートルほどでしたが、2017年にはこれが244平方メートルにまで巨大化。住宅サイズが63%も大きくなりました。一方で、「小さな家に住む」というテーマを掲げた「Tumbleweed」というメーカーが登場したことで ミニマリストのムーブメントが2000年代に始まりました。
by Vita Vilcina
「小さな家」を選択する理由は人によってさまざまですが、「環境への影響を少なくしたい」「人生や持ち物をシンプルにしたい」「経済的負担を軽くしたい」といったものがあります。実際に、「小さな家」というアプローチは建設材料が少なくて済むこともあり、差はあるものの建築コストは平均して3万~4万ドル(約320~430万円)の範囲に収まるとのこと。
Tumbleweedの販売する「小さな家」はこんな感じ。以下が7万2000ドル(約780万円)のおうち。
こっちは7万9000ドル(約850万円)
さらに安い6万ドル(約650万円)のおうち。
中はこんな感じ。1階にリビング、キッチンがあり、2階がベッドルームとなっています。
これがロフト兼ベッドルーム。
大きな家を建てると、もともとあった緑地が失われ、空気汚染やエネルギー消費が増し、エコシステムが断片化することで生物多様性が失われてしまいます。このことから「小さな家は環境によい」という主張はしばしば見られるものの、実際にこの点を調べた研究は数少ないとのこと。バージニア工科大学で環境計画デザインの博士課程学生であるMaria Saxton氏は、この点に着目し、家を小さくすることによる環境への影響を測定する研究を行いました。
Saxton氏はまず、実際に小さな家に住み替えて1年以上たつ80人を対象にアンケート調査を実施。住み替える前の大きな家と、住み替えた後の小さな家とでエコロジカル・フットプリントを計算・比較しました。加えて、対象者のうち9人に対し、深層面接法で「家を住み替えることで行動がどう変化したのか」を綿密に調べました。
by Jasmin Sessler
エコロジカル・フットプリントとは、人間が環境に与える負荷を、資源の再生産と廃棄物の浄化に必要な面積として示した数値のこと。調査対象となった住宅はアメリカ各地に点在していますが、住み替えにより平均して45%のエコロジカル・フットプリントが減少したことが示されたとのこと。また、深層面接法により、「家を小さくすることがライフスタイルに影響し、予想しなかった方法で環境への影響を小さくしていることがわかった」とSaxton氏は述べています。
Saxton氏はエコロジカル・フットプリントのうち空間的なフットプリントに着目して計算を行いました。調査の結果、アメリカ各地にある「小さな家」の平均的なエコロジカル・フットプリントは3.87グローバルヘクタール(約3万8400平方メートル)であることが示されました。これはつまり、家に住む人を1年間サポートするためには3万8400平方メートルが必要ということ。一方、回答者の小さくする前の住居サイズは7.01グローバルヘクタール(約7万平方メートル)でした。なお、アメリカ人の平均フットプリントは8万4000平方メートルなので、小さな家に住むことで、環境への影響を半分以下にできることが示されたことになります。
また、エコロジカル・フットプリントだけでなく、回答者の食生活・交通手段・物の消費量・利用するサービスなども家のサイズの影響を受ける可能性があるとのこと。これらの回答者は、家を小さくする前と比べて、地元の作物や自分で育てた作物を食べる傾向にあり、車・バイク・バス・電車・飛行機などでの移動が少なく、より燃費のよい車を運転する傾向にあったそうです。また、物を買うことが少なく、紙やプラスチックのリサイクルを行い、ゴミを出さない傾向も見られました。このことから、「家を小さくする」ということが、環境によい振る舞いをする1つのステップになっているのではないかとSaxton氏はみています。
by Daniil Silantev
さらに、Saxton氏はこの研究から得られたフットプリントのデータを、「アメリカ人の一部が家を小さくしたらどのような影響が出るのか?」という計算に使いました。この結果、10%のアメリカ人が家を小さくすることで、生物学的に生産的な土地約150万平方キロメートルを守ることができるようになると示されたそうです。これは日本の面積の約4倍にあたります。
家を小さくすることで変化した回答者の行動を調べたところ、うち86%が環境にポジティブな影響、14%がネガティブな影響でした。ポジティブな影響には「雨水の回収」や「相乗り」などが挙げられますが、ネガティブな影響として「田舎に家があるため長距離の運転が必要になった」「リサイクル場所まで遠く、家にスペースがないのでリサイクルをしなくなった」という声もあがっています。
今後の研究で、ネガティブな影響が出たことの意味を理解することや、家を小型化すること以外の要因が影響している可能性を理解していくことが重要だとSaxton氏は述べています。
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