一睡もしないでいるとあなたの脳・心臓・免疫系・パフォーマンスには何が起こるのか?
by Aditya Bose
6時間睡眠を続けている人は自分で気づかないうちに徹夜した人並みに認識能力が落ちることが過去の研究から示されています。では、夜しかるべき時間に眠らないと、体ではどのような変化が起こり、結果として私たちはどうなってしまうのかを、専門家が解説しています。
What Happens to Your Body on No Sleep | Outside Online
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◆脳
レノックス・ヒル病院の睡眠医学ディレクターであり睡眠の研究者でもあるスティーブン・フェインシルバー氏は、急激に睡眠を奪うことの影響は、特に脳に関係していると説明しています。夜眠るべき時間から眠らないまま18時間が経過すると、まず、物事への反応にタイムラグが生じるようになります。この時の反応の遅れは酔っ払っている時に等しいとのこと。また徐々に物事を記憶することが困難になり、新しい情報が発生しても、脳がシャットダウンしているため跳ね返されてしまうようになります。
その後に、意志決定能力や数学的な処理能力、空間認識能力がゆっくりと悪化していきます。
24時間が経過すると脳はパニックモードになり、強制的に人に「マイクロスリープ」を強いるようになります。これにより、人は目を開けて話し、歩きながらも、脳は10~20秒の短い眠りを取るようになるのです。マイクロスリープに入っている時、人は見ているものを脳で処理できなくなります。このため、例えば運転を行っていると、高速道路の出口を見失ったり特定の10秒間の出来事を覚えていなかったりといったことが起こりがちです。
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35時間以上起きていると、感情表現に関係する扁桃体が、通常より60%もネガティブな経験に反応しやすくなります。一方で、感情を制御して文脈化する脳の部位とのコミュニケーションが制限されることも確認されています。言い換えると、人の脳はより出来事に対して反応性が高く、批判的になります。
そして48時間以上経過すると、幻覚が見られるようになるとのこと。フェインシルバー氏はハロウィン前の数週間に、急激かつ慢性的な睡眠不足に襲われたことがあり、「カボチャが自分に話しかけてくる」という幻覚を見たそうです。人は48時間以上眠らないと精神障害に似た症状を経験します。睡眠不足が人を死に至らしめるかは2019年時点ではっきりしていませんが、多くの研究者は「急激な睡眠不足は生命維持に必要なプロセスを脳が行う能力を奪い、結果として体のシステムが崩壊してしまう」と考えているとのこと。
なぜ脳が機能不全に陥るのかも分かっていない部分ですが、「物質S」と呼ばれるものが関係しているとみられています。過激な運動をすると筋肉が乳酸を蓄積し、筋肉痛が起こって最終的には動くことが難しくなります。睡眠は脳に蓄積する有害な「物質S」を除去する役目を持つと考えられており、筋肉痛が起こるのと同様に、眠らないと物質Sが血中に蓄積し続けてしまうわけです。
この分野は研究段階で結論は得られていませんが、アルツハイマーや脳疾患の分野の治療の「光」となる可能性があるといわれています。
睡眠には脳の老廃物を除去する働きがあることが判明、脳疾患の治療に光 - GIGAZINE
◆心臓
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では、脳以外の部分は睡眠不足でどのような影響を受けるのかというと、まず血圧が1日を通して高くなります。通常、睡眠時に人の血圧は下がりますが、睡眠を奪われると下がるタイミングがなくなるため、血圧は上がり続けます。これにより心臓発作・脳卒中や、長期的な心臓疾患リスクが大きく上昇するとのこと。過去に行われた研究では、夏時間が始まり睡眠時間が1時間減ると心臓発作の発生率が25%増え、夏時間が終わって睡眠時間が1時間増加すると心臓発作が21%減少することが示されています。
◆内分泌系
夜眠るべき時間からさらに18時間以上眠らないとテストステロンというホルモンが枯渇し、エネルギーレベルに影響を与えます。ただし、テストステロンの枯渇は、その後睡眠を取ることで復活可能。これまでの研究では、5時間未満の睡眠が1週間続くと、若い男性でもテストステロンレベルが10~15%下がることがわかっています。健康な人であれば、テストステロンレベルは1年に1~2%ずつ下がっていく程度なので、テストステロンレベルに関しては、睡眠不足が1週間で人を10年分老化させるといえるわけです。
◆免疫系
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また、眠らないことでインターロイキン-6のような炎症や免疫疾患に関係するプロテインが蓄積します。さらに、睡眠時間がなくなることで、がん細胞やウイルスに感染した細胞と戦うナチュラルキラー細胞を作ることが難しくなり、たった1日の睡眠不足でも70%もナチュラルキラー細胞が減少するとのこと。このため2007年にWHOは夜間シフトの仕事は発がん物質となりえることを警告しています。
◆パフォーマンス
興味深いのは、睡眠不足による運動パフォーマンスへの影響は、肉体的なものよりも精神的なものの方が大きいこと。行動・健康科学の准教授であるShona Halson氏は、睡眠不足であっても「運動時、肉体的なシステムに変化はみられません」としつつも「労力への見方が変化し、全てが困難に思えてきます」と説明しました。これにより、結果としてパフォーマンスが落ちることはありえるとのこと。チームスポーツでは特に認知・感情的な要素が大きな役割を果たすため、アスリートには「睡眠不足でも、あなたの20年のトレーニングは消えない」と伝えることが重要になるとのことです。
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