コロンビアを再び戦争状態に陥れようとする反政府ゲリラの素顔に迫る
コロンビアの左翼ゲリラ組織、コロンビア革命軍(FARC)の元幹部であるイバン・マルケス氏は2019年8月29日、「他のゲリラと共に戦闘を再開する」との声明を発表。武力による闘争を開始する姿勢を明らかにしました。そんなFARCを取材したドイツの週刊誌Der Spiegelが、コロンビアを再び戦争状態に陥れようとしているFARC兵士らの素顔に迫りました。
FARC Preparing for Renewed Fighting Deep in Colombian Jungle - SPIEGEL ONLINE
https://www.spiegel.de/international/world/farc-preparing-for-renewed-fighting-deep-in-colombian-jungle-a-1286296.html
2016年6月、コロンビアの反政府左翼ゲリラであるコロンビア革命軍(FARC)がコロンビア政府との和平交渉に合意。この停戦により、それまで半世紀以上の長きにわたり内紛状態だったコロンビアに平和が訪れるかと思われていました。しかし、2019年8月29日にFARCの元幹部であるイバン・マルケス氏が闘争再開を宣言し、和平以降も活動を続けている左翼ゲリラの民族解放軍(ELN)と連携する考えを明らかにしたことで、平和を取り戻したはずのコロンビアに暗雲が立ちこめています。
◆和平に不満を持つ元ゲリラ
そんなコロンビアのジャングルに潜むFARCを訪ねたDer Spiegelのフアン・モレノ記者に対し、FARCの指揮官であるダニーロ・アルビズ氏は「我々は今、歴史的な瞬間に立ち会っています」と語りました。アルビズ氏が取材に同意したのは、FARCが再び武装蜂起することを世界中に知らしめて、コロンビアの農民や麻薬カルテルに武装や共闘を呼びかけるためだといいます。
Der Spiegelの取材を受けるアルビズ氏。左腕に着用している3色の腕章は反政府ゲリラFARCの後継団体「人民革命代替勢力(Fuerza Alternativa Revolucionaria del Común:FARC)」のものです。
和平交渉の以前から反政府ゲリラのメンバーだったアルビズ氏は、一度は奨学金を申請してキューバで人生をやり直そうとしました。しかし、結局コロンビアに舞い戻って、FARC政党に入党し、党のカメラマンとしての活動を始めました。そして、FARCが再び武装組織になってからは、その戦闘部隊の指揮官を務めるようになります。
アルビズ氏はFARCに戻った理由として「FARCとの合意に応じたコロンビア政府は、FARCの元構成員の身の安全を保証しましたが、合意は果たされていません。多数の元FARCの構成員が政府に雇われたギャングや殺し屋に殺されました」と主張。政府が和平合意を順守していないことを理由に武装闘争再開を宣言したマルケス氏に同調しました。
◆恋愛を理由に入隊
兵士としてFARCに参加している13歳のアレハンドラさんがFARCに入隊した理由は、恋愛でした。
アレハンドラさんに父親はおらず、9人の兄弟と子宮がんを患っている母親とともに農村で暮らしていました。しかし、準軍事組織に射殺された6人の伯父を含め、母親の親族はみな命を落としてしまったとのこと。そんな折りに、アレハンドラさんがいた農村に現れたFARCの兵士と恋仲になったアレハンドラさんは、12歳でFARCに参加することを決意しました。
ジャングルの奥地にあるFARCのキャンプには、アレハンドラさん以外にも多数の少女らがいます。兵士たちの戦闘訓練を見学したり、組織運営の手伝いをしたりして過ごしているというアレハンドラさんは、モレノ氏のインタビューに対し、「たまに怖くなることもあるけど、FARCの同志が勇気をくれます」と話しました。
◆麻薬カルテルや一部の農民から支持を受けるFARC
コロンビア政府との停戦に応じた条件として、合法的な政党の結党を許可されているFARCですが、選挙でのFARCの得票率は1%にも満たず、大半のコロンビア国民はFARCを支持していません。それにもかかわらずFARCが勢いを保っている背景には、麻薬カルテルやコロンビア系マフィアとのつながりがあります。
FARCは、コカインの原料となるコカインペーストの取引を仕切っており、コロンビアでコカインペーストを入手できるのは、FARCに協力している密売人だけです。こうした麻薬の取引はFARCの資金源になっているだけでなく、原料となるコカを栽培している農民の支持を得るための原動力にもなっています。
コカの生産拠点はコロンビア全域に点在していますが、FARCが拠点を設けているプトゥマヨ県もその1つです。
プトゥマヨ県では、コロンビア当局によるコカ栽培の取り締まりが行われる一方で、コカの栽培をやめた農家には補助金が支払われるなど、麻薬の生産を抑える施策が行われました。しかし、政府の目が届かず、汚職や犯罪が横行する地方に住む農民にとって、農民の庇護者をうたうFARCは政府より格段に頼もしい存在です。
Der Spiegelの取材中に、7kgのコカインペーストをFARCに売却した農家の男性は、「ゲリラが帰ってきてくれてうれしいです。彼らのおかげで村に秩序が戻り、盗まれる心配をせずに家の前に農具を置いておけます」と話しました。
◆都市部でのテロに戦略を切り替えたFARC
FARCの人数や経済力は決して潤沢ではなく、武器や弾薬はおろか女性兵士に支給する下着にさえ事欠いています。アルビズ氏によると、FARCに参加している武装ゲリラの人数はプトゥマヨ県だけで500人、コロンビア全土で2000人ほどだとのこと。また、既にFARCと共闘することを明らかにしているELNの構成員は3000人ほどだとのことで、合計すると5000人ほどの武装ゲリラがFARC側の戦力となります。対するコロンビア政府軍は、アメリカの支持を受けて最新鋭の武器や通信システムを装備しています。
しかし、アルビズ氏は「軍の過激派の中には、新しい戦争に既得権益を持つ一派があります。我々が勢力を伸ばすことができたのは、停戦の間に彼らが支援してくれたおかげです」と話し、コロンビア政府軍は一枚岩ではないので、FARCにも十分な勝算があるとの見方を示しました。
また、アルビズ氏は「兵士の4割は都市部に潜伏し、お互いの顔さえ知らずに活動します」と話し、FARCの戦略がジャングルでのゲリラ活動から都市部でのテロ活動にシフトしていることを明らかにしました。
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