読書によって脳の機能が強化されることが判明

by Steven Depolo

読書は人間にとって新しい情報を脳にインプットするための重要な手段です。しかし、脳の領域は限られていて、文字を読むことは脳のリソースの多くを奪うため、文字の習得や読書の経験を多く積むことは脳にとってマイナスであるという主張もあります。そんな読字・読書が脳に与える影響によって「むしろ脳の視覚的な機能は強化される」という実験結果が、マックス・プランク心理言語学研究所の脳科学研究者によって報告されています。

Learning to read recycles visual cortical networks without destruction | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/5/9/eaax0262

Learning to read boosts the visual brain | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-09/mpif-ltr091119.php

Brain scans reveal exactly why learning to read is good for the brain | Inverse
https://www.inverse.com/article/59385-learn-to-read-brain-changes

文字は人間文化における重要な発明です。読み書きを学ぶことで、人の脳のうちで視覚単語形状領野(VWFA)と呼ばれる領域が活性化し、脳は視覚オブジェクトの中から特に文字に対して敏感になるといわれています。しかし、VWFAが拡大することで、文字以外の顔・家・道具といった一般的な視覚オブジェクトを処理するために利用可能な脳領域を占有してしまうため、過度の読書は人間の文化的な活動に有害な影響を与えると主張する人もいるとのこと。

by amenclinicsphotos ac

マックス・プランク心理言語学研究所のFalk Huettig博士とAlexis Hervais-Adelman博士率いる研究チームは、インド北部に住む90人以上の成人の脳を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で検査しました。29歳から35歳の被験者のうち、29人は読み書きができなかったとのことで、研究チームは被験者を6カ月にわたってヒンディー語の識字トレーニングのプログラムに参加させました。

トレーニングプログラムが終了したあと、研究チームは被験者の脳を再びfMRIで分析。fMRIを受けている被験者に文章や手紙、顔や家の画像を見せることで、「読み書きを学んでから脳がどのように変化したか」「その変化が脳の他の部分にどういった変化を与えたか」を確認しました。

「読み書きができず、読み書きのトレーニングも受けていない人」「読み書きができている人」のfMRIの結果と比較した結果、「読み書きができなかったが、トレーニングで読み書きができるようになった人」の脳で、後頭葉,腹側視覚野,下頭頂,前運動および補足運動領域の脳の様々な部分を含むネットワークにおいて活動が増加していたことがわかりました。この活性化は顔や家などの画像を見せた時も同様に見られました。つまり顔や家など文字ではない視覚オブジェクトに対する反応に対して読書による悪影響はみられず、むしろ読書によって視覚刺激全般に対する脳の反応が敏感になっているといえます。

by Fabian Reus

「字の読み方を学ぶとき、人は脳の能力を利用して視覚をつかさどる脳領域にカテゴリー選択パッチを形成します。脳はカテゴリー選択パッチによって、文字を特殊な視覚オブジェクトと認識し、顔や家など他カテゴリーの専門分野と同じ皮質領域で処理します」とHervais-Adelman博士は説明しています。文字を読むことと顔の認識によって活性されるのは主に脳の左半球で、他の領域に悪影響を与えることはなかったとのこと。

「VWFAは隣人の領土を侵食せず、他カテゴリーの視覚オブジェクトの反応領域と共有されます」「読むことを学ぶことは、視覚オブジェクトへの脳の反応を鋭敏にし、視覚系に全般的にプラスの影響を与えます」とHuettig博士は主張しました。