「既存の技術や材料で宇宙エレベーターに近い設備の建設が可能」と研究者が主張
by qimono
宇宙船を打ち上げることには大きなコストがかかり、失敗も多い非常に困難なプロジェクトです。そこで、より安価で安全に宇宙へと物資を輸送する手段として注目されているのが、惑星から軌道衛星上まで伸びる塔やケーブルを建設して物や人を運搬する宇宙エレベーター(軌道エレベーター)です。実際に宇宙エレベーターの実現可能性について計算した天体物理学者たちは、「理論的には既存の技術や材料で宇宙エレベーターに近い建造物を作ることが可能だ」と主張しています。
[1908.09339] The Spaceline: a practical space elevator alternative achievable with current technology
https://arxiv.org/abs/1908.09339
Astrophysicists Say One Space Elevator Concept Is Possible With Today's Technology
https://www.sciencealert.com/researchers-say-they-ve-found-space-elevator-alternative-that-could-actually-work
近年ではカーボンナノチューブをはじめとする新素材の開発により、地球から宇宙へと伸びる宇宙エレベーターの建造も現実味を帯びていますが、いまだに技術的な障害が存在します。ところが、ケンブリッジ大学で天体物理学を研究するZephyr Penoyre氏とコロンビア大学で天体物理学を研究するEmily Sandford氏は、「宇宙エレベーターに近い建造物は現代の技術で開発可能」とする論文を、論文公開サイトのarXivに公開しました。
2人が提唱するのは、宇宙エレベーターとして一般的に考えられている「地球から宇宙へ伸びるエレベーター」ではなく、「月から地球の静止軌道上まで伸びるエレベーター」を建造するアイデアです。この建造物は「スペースライン(spaceline)」と呼ばれており、記事作成時点で開発されているツールと材料を用いて、技術的および経済的に建設可能だと2人は主張しています。
2人が主張するスペースラインは一方の端を月に固定し、もう一方の端を地球の静止軌道上に位置させることで、より月への物資輸送を容易にできると考えられています。この建造物を作ることにより、地球から月への物資輸送に必要な燃料が3分の1に減らせると2人は述べています。
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スペースラインが従来考えられてきた宇宙エレベーターより優れている点として、「月は常に地球に同じ面を向けており、約1カ月で1度だけ地球を周回する」ということが挙げられます。地球に宇宙エレベーターの端を固定すると、1日に1回自転する地球の遠心力で、建造物がゆがんでしまう可能性があります。一方、地球から見て動きの少ない月にスペースラインを固定することにより、遠心力の影響を抑えることができるとのこと。
また、重要な点として強調されているのが、スペースラインはザイロンをはじめとする既存の超強力な材料を用いることで建設可能という点。さらに、地球と月の重力が釣り合いをとるラグランジュ点にカウンターウェイトを兼ねたベースキャンプを建設することで、長いケーブルを安定的に維持できるそうです。
なお、今回の論文はコストと実用可能性の点からスペースラインが記事作成時点でも建設可能だと示したものですが、あくまでも計算上の概念実証にとどまっており、査読付きの学術誌には未掲載です。それでも、月に固定したスペースラインは、宇宙エレベーターよりも低コストな物資輸送の手段を提供する可能性があります。
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