「ストレスに対処するには不快感を伴ったとしてもコミュニティへの帰属が必要」と研究者が主張
by kat wilcox
近年では「大学生のメンタルヘルスが悪化している」と盛んに叫ばれており、新たに大学に入学する学生たちは、「前世代の大学生たちよりも高い不安、憂うつ、社会的孤立を感じている」とのこと。ミドルベリー大学の言語学・教育学准教授を務めるShawna Shapiro氏は、そんな大学生たちのストレスを軽減するためには快適で安全な状態を保つだけでは不十分であり、「たとえ不快感を伴うものであっても、コミュニティへの帰属がストレスの対処に重要です」と主張しています。
Why building community – even through discomfort – could help stressed college students
https://theconversation.com/why-building-community-even-through-discomfort-could-help-stressed-college-students-121398
記事作成時点でアメリカの大学において学部生の大半を占めているのは、1997年以降から2000年初めまでに生まれたジェネレーションZと呼ばれる世代です。この世代は民族的に多様であり、オープンなマインドを持ち、勤勉で、世界的な問題に関心を持っていると分類されています。しかし、同時にこの世代の大学生は、大きなストレスを抱えていることもわかっています。
Shapiro氏も他の研究者たちと同様に、大学生の持つコミュニティへの帰属意識がストレスに対処する方法の一つだと考えており、一体どのような要素が帰属意識を高めるのかについて調査してきました。帰属意識を客観的に測定することは困難ですが、大学内でのコミュニティに対して感じる重要性、つながり、尊敬、目的意識の共有などが密接に関連しているとのこと。この感情は、単に学業成績や中退率などで測ることはできないそうです。
数十年来の研究により、帰属意識を高める大事な要素の一つに、「同年輩の多様なグループとの頻繁な相互作用」があることがわかっています。多様な集団とのコミュニケーションはお互いにさまざまなことを学ぶ機会を増やし、キャンパス全体に対する学生の印象もよくなるとShapiro氏は述べました。ところが、Shapiro氏が自身の勤めるミドルベリー大学で「バックグラウンドや視点が自分とは違う仲間と関わった経験があるか」について調査したところ、予想以上に異なる価値観を持つ人々との関わりが少なかったことが判明します。その一方で、多くの学生たちはこうした交流に肯定的な評価を持っていました。
by Stanley Morales
Shapiro氏の調査によると、多くの学生は「この大学には多くの社会的断絶がある」と考えていたそうで、この傾向はミドルベリー大学以外の大学にも当てはまるとのこと。社会的断絶は人種やクラスといったものだけでなく、たとえば運動部の学生と運動部ではない学生の間にも存在すると学生たちは考えていました。
多くの学生たちはこの社会的断絶を乗り越えたいと感じていたそうですが、実際にどうすればいいのかわからなかったそうです。生徒たちの中には、「学生たちは自身が所属する場所から出て、自然に生活することでそれまで交流のなかった人々と交わるべきです」「学生はリスクを取らなければなりません。快適な空間から飛び出て、興味のあることに注力するべきです」と主張する人もいたとShapiro氏は述べています。
by geralt
Shapiro氏が学生たちに多様な人々を排斥せずに受け入れる意味合いで使われる「Inclusivity(包括性)」という言葉の印象について尋ねたところ、多くの学生が「平和」や「調和」といったイメージを持っていたとのこと。この点から、学生たちは多様な人々との関わり合いを望みながら、そこに対立や緊張も望んではいないとShapiro氏は指摘。誰もが快適であり、不快感を感じない状況こそが、多様な人々が交わるコミュニティにとって重要だと学生たちは考えているとShapiro氏は分析したわけです。
学生たちが人間関係における摩擦を避けるために多様な交友関係を築こうとしないことは、矛盾を生み出すとShapiro氏は述べています。多様性に関与することは帰属意識を高めるための重要な要素で、自分と違う価値観を持つ人と関わりを持つ中で対立や緊張、不快感が伴うのは当然のことです。もしも学生たちが人々との関わり合いにおいて、「自分が不快感を覚えてしまったので、このコミュニティは多様性、包括性の観点からすると間違っている」と評価するのならば、結局学生は孤立感から脱することができないかもしれないとShapiro氏は指摘しています。
by rawpixel.com
近年、アメリカのエリート大学生の中には日々を円滑に過ごしているように外見を取り繕い、他人から見えないところで猛烈に努力と苦労を重ねている「Duck Syndrome(アヒル症候群)」が増加しています。しかし、このアヒル症候群の学生たちは、エリート意識の高い集団で失敗することや苦労を見せることを避け、他人に置いていかれまいと水面下で必死に努力をする中で、周囲からの孤立感を覚えてしまっているとのこと。こうしたアヒル症候群に悩む学生たちは、周囲との衝突などの不快感を避ける傾向にあります。
そんな中で、スタンフォード大学ではあえて「自分が失敗した経験を話す」ことで学生たちに帰属意識と勇気を植え付ける、「Resilience Project」が実施されています。このように、学生たちが不快な経験を避けるのではなく、あえて不快感を共有することで社会的なつながりを作る動きがアメリカの大学に広がっているそうです。
Shapiro氏は自身の研究から得た教訓として、高等教育に携わる人々自身から学生に対し、「コミュニティに帰属することは快適なだけではない」と伝える必要があると述べています。多様な価値観を持つ人々と社会的なつながりを持とうとすれば、意見の相違や対立が避けられず、不快な思いをする可能性は少なくありません。「帰属意識とは、多様なコミュニティの中で変革的な学習の可能性を真剣に考えることです」と、Shapiro氏は述べました。
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