昔のPCにはなぜ「鍵穴」がつけられていたのか?
1980年代半ばから1990年代半ばのPCには、ケースに鍵穴がついているモデルが多く存在しました。自動車のように鍵をさし込んでエンジンをかける必要がないPCになぜ鍵穴をつける必要があったのか、レトロPCやゲームについて扱うYouTubeチャンネルのLGRがその理由をムービーで解説しています。
Why did old PCs have key locks? [LGR Retrospective] - YouTube
昔のPCには決まってこんな感じの鍵穴がついていました。これは「キーロック」と呼ばれ、1984年~1994年ごろのPCによく搭載されていた装備です。
鍵穴はなぜPCにつけられるようになり、そしてなぜ姿を消してしまったのでしょうか?
結論からいうと、多くの場合キーロックは「キーボード入力をロックするため」か「PCのケースを開けられないようにするため」またはその両方のために使われていました。
例えば「LGR Woodgrain 486」というPCでは、キーロックをかけることでキーボード入力を受け付けないようになります。これによって、PCの使用者が席を離れている内に誰かが勝手に操作するのを防いでいました。
あるいは、PCのケースが不意に空かないようにするものや……
ハードドライブへのアクセスを無効にしたり、そもそもコンピューターの電源が入らないようにするものもありました。
このタイプのキーロックが主流になったきっかけとなったのが、1984年にIBMから発売された「PC/AT モデル5170」の登場です。この機種は「PC/AT互換機」という言葉が生まれたほど多数のフォロワーを生み出し、後のデファクトスタンダードになったPCです。
このキーロックについて取り上げた1984年のPC雑誌によると、「企業の重役が枕を高くして寝るための革新的システム。複製困難なチューブラキーが所有者以外のすべてのアクセスをブロックしてくれます」とのこと。
これは重要なポイントでした。なぜなら、当時の「IBM PC」や「IBM PC XT」は誰でも簡単にPCの中身に触れることができたからです。
パスワードや認証システムなどもなかったため、第三者のアクセスを妨ぐ手段はありませんでした。これは企業秘密を守らなければならない立場からすると、由々しい事態といえます。
そこでIBMが目を付けたのが鍵メーカーChicago Lockが特許を取得していたチューブラキーです。その堅固なつくりやコンパクトさから、自動販売機や警報システムなどに用いられていました。
当時のPCが自動販売機などに比べて堅固であったかどうかを考えると、心に平穏をもたらしてくれる必要最低限のセキュリティだったともいえます。
ただし商業的には十分な活躍を見せました。その人気は、IBMがユーザー向けに「キーロックオプション」なる追加パーツを発売するほど。
もっともこのパーツは、鍵を回すと中にある金属製のアームが上下して……
電源スイッチを物理的に切り替えるという、やや強引な代物でした。
当時の主流だったIBMに、ほかのPCメーカーはこぞって追随しました。これが「キーロック時代」の幕開けになったというわけです。
そして、このキーロック時代の訪れは「ロックしたまま鍵をなくしてしまう」という悩みの始まりでもありました。キーロックが廃れた今でも、ビンテージPC市場には鍵のない中古PCが山ほど転がっています。
ある意味でこの時代を象徴するのがこのシリコングラフィックス製の「SGI Indigo2」です。
この先端に穴が空いた金属の棒を……
PCにさし込んで、反対側に南京錠をかけて使いました。
ほかにも、フロッピーディスクドライブ専用の鍵も存在しました。
キーロック時代が終わった後も、鍵付きのPCは存在しています。一部のサーバーや……
ワークステーション
マニア向けPC
本体ごと盗まれる可能性があるノートPCなど。
こういった例外はありながらも、やがてBIOSにパスワードを設定できるようになったり……
OSがパスワードやファイルの暗号化をサポートするようになるとともに、物理的な鍵は姿を消していきました。
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