草が生えない謎の円形地帯が無数に現れる「妖精の輪」現象の発生メカニズムが解明される
アフリカ大陸南西部のナミビア共和国に広がるナミブ砂漠やオーストラリアのアウトバックでは、植物が育たない地帯が水玉のような感じで広がる「fairy circles(妖精の輪)」と呼ばれる現象が確認されています。妖精の輪が現れる原因について研究者らがさまざまな仮説を提唱してきましたが、ついに妖精の輪が発生するメカニズムを説明する論文が発表されました。
A multi‐scale study of Australian fairy circles using soil excavations and drone‐based image analysis - Getzin - 2019 - Ecosphere - Wiley Online Library
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ecs2.2620
Getting to the bottom of fairy circles: Physical processes in the formation of circles -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/02/190221122954.htm
It’s not termites: new study gives fresh take on how “fairy circles” form | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/02/its-not-termites-new-study-gives-fresh-take-on-how-fairy-circles-form/
妖精の輪は植物が自生する地域で確認される現象で、植物が全く生えない直径数mの円がなぜか地面に無数に現れるというものです。ナミブ砂漠の付近に住んでいる人々の間には、「神の足跡」や「毒の息を吐くドラゴンが地中に住んでいる」といった伝承があるとのこと。以前はナミブ砂漠でのみ観測されていた現象でしたが、2014年に初めてオーストラリアのアウトバックでも妖精の輪が確認され、ナミブ砂漠以外の場所でも妖精の輪が発生することがわかったそうです。科学者らは長年にわたってナミブ砂漠に現れる妖精の輪現象の謎に挑んでおり、さまざまな仮説が提唱されてきました。
自然界のミステリー・ナミブ砂漠の「妖精の輪」に研究者たちが挑む - GIGAZINE
提唱されている複数の仮説の中で特に有力と考えられているのが、「シロアリ説」と「気候説」です。シロアリ説によると妖精の輪は、付近に生息するシロアリが植物の根を食べることで植物が枯れて発生するとのこと。根がシロアリに食べられてしまうと植物が雨水を吸収することができず、雨水は土壌に染み込みます。これによってシロアリは植物に邪魔されずに水を得ることができるという仕組みで、シロアリは巣を中心にして次第に外側へと植物の根をかじる範囲を広げていくため、妖精の輪が円形状に広がるという説明がされています。
by Malcolm Tattersall
一方で気候説では、妖精の輪が発生するのはナミブ砂漠やアウトバックが年間降水量の極端に少ない超乾燥地帯であるためだとしています。このような乾燥地帯では乏しい水資源を奪い合って植物が激しい競争を繰り広げ、水を得られなかった植物は枯れてしまい、その部分から植物が消えてしまいます。すると競合する植物が消えた分、その周囲の植物は以前よりも容易に水を得ることが可能となり、植物の生えない地帯を取り囲むように植物が生えて妖精の輪を作り出すとのこと。
フロリダ州立大学の生物学者であるWalter Tschinkel氏は、衛星写真を基にした2012年の調査で「妖精の輪の平均寿命は約41年である」と結論づけました。Tschinkel氏はシロアリ説が有力だと考えていましたが、結局シロアリ説を補強する証拠を発見することはできませんでした。その翌年の2013年、ハンブルク大学の環境学者であるNorbert Juergens氏がナミブ砂漠にある妖精の輪の土壌を調査した結果、妖精の輪が作られる初期段階には常にシロアリが確認されたとのことで、「妖精の輪はシロアリが原因だ」と発表しました。
シロアリが妖精の輪の原因だとする説の賛同者は少なくない一方で、シロアリ説に対しては「なぜ妖精の輪がしばらくすると消えてしまうのかを説明していない」といった反対意見も寄せられています。ケープタウン大学のMichael Cramer氏は「極度に乾燥した気候で植物が効率的に水を得るために発生した、自己組織化されたパターンこそが妖精の輪である」という説を2013年に提唱しました。Cramer氏はGoogle Earthの衛星写真とその土地の土壌サンプルを組み合わせてコンピューターモデルを作り、およそ93%の精度で妖精の輪の分布を予測することに成功したとのこと。
オーストラリアでも妖精の輪が確認された後の2016年には、ドイツ、オーストラリア、イスラエルの研究者らが共同で、オーストラリアの妖精の輪についてもコンピューターモデルを作成しました。モデルでのシミュレーションの結果、妖精の輪が発生する最も強い要因は「降雨量の変動」であることが確認され、Cremar氏の「妖精の輪は植物の自己組織化されたパターンである」という説を支持する結果となっています。
さらに研究チームは2019年2月に最新の研究結果を発表し、「確かにシロアリの活動と妖精の輪にはある程度の相関関係が認められるものの、シロアリが妖精の輪を発生させているわけではない」として、極端な乾燥や乏しい資源を獲得するために行われる植物間の競争が妖精の輪を作り出すと結論付けています。研究チームの一員であるゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲンのStephan Getzin氏は、「シロアリによる植生の変化は妖精の輪付近でも起きていますが、シロアリの局所的な破壊が妖精の輪を作り出すわけではありません。水と植物、土壌の関係が妖精の輪を生み出しています」と述べました。
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