サイエンス

人工塩基を加えて通常の2倍である8種類の塩基で構成される「Hachimoji DNA(8文字DNA)」が作り出される

by Stuart Caie

人工の塩基対についての研究を行っているアメリカ・フロリダ州の研究機関であるFoundation for Applied Molecular Evolutionの研究チームは、DNAに人工の塩基対を組み合わせ、自然に存在するDNAの2倍である8種類の塩基で構成されたDNAを作り出すことに成功しました。新たな人工DNAは、日本語の「8文字」から「Hachimoji DNA(8文字 DNA)」と名付けられています。

Hachimoji DNA and RNA: A genetic system with eight building blocks | Science
http://science.sciencemag.org/content/363/6429/884.full

Four New DNA Letters Double Life's Alphabet - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/four-new-dna-letters-double-lifes-alphabet/

地球上の生物はアデニン(A)グアニン(G)チミン(T)シトシン(C)という4種類の塩基が結合して構成されるDNAに、自身の遺伝情報を保存しています。通常、二重らせん構造をとるDNAはAとT、GとCという組み合わせで結合しており、DNAの遺伝情報がRNAに転写されて遺伝情報の転写やタンパク質の合成などが行われています。

研究者は長年にわたって天然の塩基対だけでなく、人工の塩基対を作り出す試みを続けてきました。今回の研究を主導したSteven Benner氏は1980年代に人工の塩基を作り出しており、2014年には人工の塩基対を組み込んだ人工DNAを生体内で複製させることにスクリプス研究所のチームが成功したと報じられました

塩基対は水素結合によって特定のペアと結びついており、Benner氏はその仕組みをレゴブロックの出っ張りが対応する穴に刺さるようなものだと説明しています。Benner氏の研究チームはこの出っ張りと穴の仕組みを変更することで、新たに「S」と「B」、「P」と「Z」という人工の塩基対を作り出したとのこと。新たに作られた塩基は従来の塩基が基になっており、形も似ているそうですが、結合パターンが異なると研究チームは述べています。

by University of Michigan School for Environment and Sustainability

DNAが情報を格納するストレージとして機能するためには、塩基が特定のルールに従う必要があるため、研究チームは人工の塩基が特定のペアで結合することを実験で確かめました。また、人工の塩基対を組み込んだDNAであっても、二重らせん構造が安定して保たれることも証明したとのこと。

さらに、研究チームは人工の塩基対を組み込んだDNAが、RNAへしっかりと転写されることも実験で明らかにしました。DNAの情報がRNAへ転写されることは、遺伝情報を生命の源であるタンパク質へ変換するための重要なステップです。Benner氏は、「人工の塩基対を組み込んだDNAが情報を格納することそれ自体は特に興味深い発見ではありません。人工塩基対の情報が転写されることが重要なのです」と述べています。

スクリプス研究所の化学生物学者のFloyd Romesberg氏は今回の研究結果を受けて、「今回の発見は大きなランドマークとなります」と話しました。地球上の生物が持つ「A・G・T・C」という4種類の塩基には特別な要素があるわけではなく、ほかの人工的な塩基がDNAに組み込まれて転写も行われるという事実は、大きな概念上のブレークスルーをもたらすとのこと。研究チームは新たに作られた8種類の塩基からなる人工DNAを、日本語の「8文字」からとって「Hachimoji DNA」と名付けました。

by Matti Mattila

遺伝情報を保存する塩基が2倍になったことで、科学者はRNAまたはDNAを従来の塩基が行ってきた遺伝情報の格納だけでなく、ほかの用途にも使うことができると考えています。たとえばBenner氏の研究チームはZとPを含む合成DNAが、通常のDNAと比べてガン細胞と結合しやすいことを発見しました。これを応用し、合成DNAを医療診断のツールとして使用できる可能性があるとのこと。

また、塩基が増えたことでDNAが保持できる情報量も増えるため、DNAにさまざまな情報を格納するDNAストレージ技術にもHachimoji DNAが貢献する可能性もあるとされています。

Microsoftが1グラムのDNAに10億テラバイト=1ゼタバイトものデータを保存する「DNAメモリ」技術に出資 - GIGAZINE


「テキストや音声などのデータを安価な方法でDNAに保存する」というスタートアップ企業が誕生する - GIGAZINE

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
将来的に「新しいたんぱく質」につながる、人工塩基対を大腸菌の生体内で維持させ続けることに成功 - GIGAZINE

「テキストや音声などのデータを安価な方法でDNAに保存する」というスタートアップ企業が誕生する - GIGAZINE

ハードディスクを上回る超大容量・低維持コストで全世界データの保存も可能な「DNAストレージ」とは? - GIGAZINE

MicrosoftはDNAストレージをクラウドサービスに活用する計画を持っている - GIGAZINE

遺伝子にもDIYの時代、遺伝子操作技術CRISPRで改変したDNAを自分の体に注入した男性 - GIGAZINE

遺伝子編集技術「CRISPR」でDNAの中にGIFアニメーションのデータを格納することに成功 - GIGAZINE

父親由来のミトコンドリアDNAが発見され、「ミトコンドリア・イブ」が覆る可能性が示される - GIGAZINE

文化的・社会的な違いが遺伝情報の1つとしてDNAに刻まれている可能性が判明 - GIGAZINE

生きたヒト細胞内で初めてDNAの結び目構造「i-motif」が確認される - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.