2018年07月08日 09時00分サイエンス

「テキストや音声などのデータを安価な方法でDNAに保存する」というスタートアップ企業が誕生する

by Caroline Davis2010

テキストや音声データの記録媒体としてはCDやHDD、SSDなどの電子媒体が一般的に使われています。ボストンのスタートアップ企業であるCatalogは、「安価な方法でDNAにデータを保存する」ことを目的に設立されました。

Boston startup Catalog has come up with a cheap way of storing information in DNA — Quartz
https://qz.com/1314803/storing-information-on-dna-is-now-cheap-enough-to-be-viable/

世界中では日々膨大なデジタルデータが新たに生み出されており、2016年の1年間だけで人類は16.1兆GBものデジタルデータを作り出したとされています。1年間で作り出すデジタルデータの量は、2025年までに2016年の10倍になるとの見込み。2018年現在、生み出されたデータの多くが外付けハードディスクや巨大なサーバールームに格納されていますが、これらのデータサーバーは大きなスペースを占め、数年から10年の周期で買い替える必要もあるため、長期的な保存に向かないという問題点を抱えています。

そこで、近年ではデジタルデータをDNAに格納する「DNAストレージ」という発想が研究され、現実味を帯びてきています。DNAに格納できるデータ量は、ハードディスクを上回るとされています。

ハードディスクを上回る超大容量・低維持コストで全世界データの保存も可能な「DNAストレージ」とは？

MicrosoftがDNAストレージをクラウドサービスに活用する計画を立てているなど、大きな脚光を浴びているDNAストレージですが、0と1からなるデジタルデータを保存するDNAを作り出すには、かなりの費用が必要です。1分間のステレオ音声データをDNAに記録するためには、150万以上の塩基対にデータを書き込む必要があり、かかる費用は10万ドル(約1100万円)にもなるとのこと。

マサチューセッツ工科大学の研究者らが設立したスタートアップ企業のCatalogは、DNAストレージに必要な費用を削減しようとしています。Catalogは1つの長いDNA鎖に情報を格納するのではなく、20～30塩基対のDNAフラグメントを酵素で縫い合わせるという方法を考案しました。この方法の特徴は、塩基対に書き込まれたデータだけでなく、「DNAフラグメントが縫い合わされた順番」も情報を表す役割を担っていること。Catalogはこの仕組みについて、「26個のアルファベットでさまざまな文章を作る英文のようなものだ」と説明しています。新たに考案した手法を使うことで、1MBのデジタルデータをわずか3000円以下の費用でDNAに格納できるそうです。

by Sascha Pohflepp

Catalogは2018年6月26日、すでに新しい手法でダグラス・アダムズ氏の小説「銀河ヒッチハイク・ガイド」とロバート・フロスト氏の詩「The Road Not Taken」のテキストデータを、DNAストレージに格納していることを発表しました。

また、Catalogはさまざまなベンチャーキャピタル企業から合計900万ドル(約10億円)の支援を受けていることも表明しており、2019年には商用利用な状態まで持っていくとしています。DNAストレージを利用したい企業は、希望するデータをCatalogに提出する必要があります。Catalogはそのデータを0と1のコードに変換し、DNAの各ヌクレオチドに0と1のペアを割り当てていくことでDNAにデータを格納し、データを格納したDNAはレストランなどで使用される大きめの冷蔵庫に保存することが可能です。

DNAストレージに格納された0と1のデータを音声やテキストとしてデコードするためには、専用のキーが必要になります。Catalogでは、将来的に「DNAデータそれ自体にDNAストレージのデータを解読するキーを入れ込む」ことを考えているとのこと。この試みがうまくいけば、何十世代も時代が下ろうと、もしくは人間以外の宇宙人がDNAストレージを発見したとしても、DNAデータを読み取ることができるかもしれません。