800年前の沈没船から発見された陶磁器を最新の装置で分析してわかったこととは?
インドネシアのジャワ島沖で発見された、12世紀後半に沈没したとみられる貨物船には、これまでの調査でおよそ10万点の陶磁器や200トンの鉄、少量の象牙、樹脂、錫(すず)のインゴットが積まれていたことが判明しています。この沈没船から引き揚げられた陶磁器を蛍光X線分析を用いて調査したところ、さまざまなことが判明したと、イリノイ大学シカゴ校の研究チームが報告しています。
Sourcing qingbai porcelains from the Java Sea Shipwreck: Compositional analysis using portable XRF - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0305440318305958
Shipwreck reveals ancient market for knock-off consumer goods | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/02/shipwreck-reveals-ancient-market-for-knock-off-consumer-goods/
研究チームによると、インド洋から南シナ海にかけて大規模な貿易ルートが12世紀後半に形成されていたそうです。この貿易ルートは南宋から東は日本、南はインドネシア、西は中東やアフリカと船で行き来できるものだったとのことで、ルートを行き交う貿易船は農作物や金属、樹脂、陶磁器などを運んでいました。特に、中国の青白磁は重要な輸出品だったとみられていて、日本からアフリカの東海岸に至るまでの広域で中国の陶磁器が発見されていると研究チームは述べています。また、中国東南部の発掘調査では数百もの龍窯が丘陵地帯で発見されています。
ジャワ島沖の沈没船から出土した陶磁器がどこで焼かれたものだったのかを調べるためには、陶器に塗る釉薬(ゆうやく)を分析する必要があります。イリノイ大学シカゴ校の考古学者であるWenpeng Xu氏やLisa Niziolek氏らによる研究チームは、沈没船から引き揚げられた60個の陶磁器の破片を携帯型の蛍光X線分析装置にかけました。
X線は医療用にも用いられる放射線で、試料に照射するとそのエネルギーで電子がはじきとばされます。電子がはじきとばされた後の空孔に別の電子が遷移し、そのエネルギー準位差に応じて蛍光X線が放出されます。この蛍光X線は原子によって波長が変わるため、X線を照射して放出された蛍光X線の波長を調べることで、試料の元素組成を分析することができます。
釉薬は窯のある地域によって異なるため、釉薬の元素組成が判明すればその陶器が主にどの地域で焼かれたものなのかがわかります。例えば、江西省景徳鎮窯の陶磁器の釉薬は、他の地域のものよりも鉄分が多くてトリウムが少ない傾向があるとのこと。一方で、福建省の徳化窯で用いられた釉薬は亜鉛とトリウムが多く、鉄分が少ないそうです。
研究チームがマグネシウム・リン・鉛・銀・カドミウムなど13元素に絞り込んで比較を行ったところ、破片は全部で4つのグループに分類され、それぞれが景徳鎮窯・徳化窯など4カ所の窯址(ようし)の特徴がみられたとのこと。12世紀後半では景徳鎮で作られる青白磁が最高級品とみなされていて、外国への輸出もほとんどが景徳鎮で焼かれたものだと考えられていました。しかし、実際は沈没した貿易船に積まれていた青白磁の多くが景徳鎮以外でも焼かれていたことが明らかになったというわけです。
研究チームによると、中国の青白磁の人気が世界各地で高まったことを受けて、当時の貿易商が沿岸に近い地域の窯で景徳鎮の青白磁のレプリカを大量に作らせていた可能性が高いとのこと。もちろん景徳鎮で焼かれた高級品も輸出され、それらは上流階級のものになったと考えられますが、その他の地域で作られたレプリカは主に大衆向けだったのではないかと研究チームは見ています。
Niziolek氏は「大量のレプリカをさまざまな地域の窯址で作って輸出していたことから、中国の陶芸家や貿易商は世界市場を意識した上で消費者のニーズに応えてきたといえます」と論じていて、「世界規模の貿易網の複雑さは予想以上のものです。これほどまでの規模の貿易網は現代の西洋資本主義でしかあり得ないと考えている人は多いかと思いますが、この沈没船の積み荷はその常識を打ち砕くものです」と述べています。
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