ニューロン同士が情報を伝達する仕組みをソフトではなくハードそのもので再現する研究が進んでいる
人間の脳の構造を模倣することで並列的に情報を処理するコンピューティングが模索されています。アメリカの研究者が、従来のようなソフトウェアによる処理ではなく、ハードウェアそのものにニューロンの働きを模倣する仕組みを取り込んだ化合物の生成に成功しました。
Ionic modulation and ionic coupling effects in MoS 2 devices for neuromorphic computing | Nature Materials
https://www.nature.com/articles/s41563-018-0248-5
Toward brain-like computing: New memristor better mimics synapses | University of Michigan News
https://news.umich.edu/toward-brain-like-computing-new-memristor-better-mimics-synapses/
人間が物事を記憶し、訓練を通じて上達できるのは脳が柔軟だからです。この脳の柔軟さ(可塑性)は、神経細胞(ニューロン)同士が互いに信号を交換し合い情報伝達できるからだと考えられています。具体的にはニューロン同士が信号を交わす部位はシナプスと呼ばれ、電気信号が神経伝達物質である可塑性関連タンパク質(PRP)の生成を活性化してシナプスの成長を助けることで、情報が伝達されます。
神経学者はシナプス間では「競争」と「協調」という異なる役割が重要だと考えてきました。1つのシナプスでPRPが放出されると他のシナプスも成長します(協調モード)。反対に、PRPが不足すると一方のシナプスは他方のシナプスを犠牲にすることでリンク(つながり)を弱め、信号がスパイクするのを防ぎます。このような、2つの異なる役割によって、脳は情報を処理しています。
このような人間の脳の構造を模倣する試みは「Brain Computing」や「Neuromorphic Computing」として盛んに開発されています。そんな中、ミシガン大学のウェイ・ルー博士の研究チームは、シリコン上に二硫化モリブデン層を生成し、リチウムイオンを付加することで、脳のシナプスによる信号伝達を模倣したハードウェア「Memristor」の開発に成功しました。
Memristorはリチウムイオンが十分に存在する場合に硫化モリブデンが格子構造を変えてまるで金属であるかのように電子がフィルムを通過できることを発見しました。反対に、リチウムイオンが不足していると、硫化モリブデンは格子構造が元通りになり半導体的な特性を持ち電子が通過できない状態になるとのこと。つまり、シナプスの信号伝達を媒介する役割を持つPRPを、リチウムイオンが担うことで、Memristorは脳のニューロンを模倣しているというわけです。
一般的なBrain Computingではソフトウェア上でニューロンの活動を再現するのに対して、Memristorはソフトウェアや複雑な回路を必要とすることなく、端末それ自体でシナプスを再現できるという点が画期的だとのこと。ルー博士の研究チームは、金(Au)を信号を発するニューロンに、丸い電極を信号を受け取るニューロンに見立てたものを接続することで、シナプス間の協調的な成長をシミュレートする端末の作成に成功しています。
ルー博士の研究チームは、「記憶を保持するネットワーク」の実現を目指して、脳の回路を模倣したNeuromorphic Computingの可能性を探るためにMemristorのようなハードウェアを開発しているそうです。
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