人の感情に訴えかけるための写真選びとは?
by U.S. Fish and Wildlife Service Southeast Region
歴史的瞬間や感情に訴えかけるような印象深いシーンを収めた写真にはとてつもないパワーが秘められており、こういった写真をうまく活用すれば、世界中の人々が「直接見ることはできないけれど、実際に起きている問題」について積極的に取り組むようになるはずです。「人類を救えるかどうかは次の3年が勝負だ」と専門家らが警告するほど大きな問題になっているのが「気候変動」ですが、人類はこの問題にしっかりと取り組めておらず、その原因は「気候変動を伝える報道などで用いられる画像にある」と指摘されています。
BBC - Future - One simple reason we aren’t acting faster on climate change?
http://www.bbc.com/future/story/20181115-why-climate-change-photography-needs-a-new-look
気候変動について報じる記事やコラムなどでは、「氷の上に乗るホッキョクグマ」や「モクモクと煙を出す発電所」などの写真が使用されるケースが多いものです。しかし、心理学者であり気候変動を映像を用いて伝えることを目的としたプロジェクト「Climate Visuals」のディレクターも務めるアダム・コーナー氏は、「人が居ない写真では人の話をすることはできない」と指摘しています。
つまりどういうことかというと、気候変動についての報道などで頻繁に使用される「氷の上に乗るホッキョクグマ」のような写真は、人々に気候変動について意識させるには不適切であるというわけ。
by Christopher Michel
それではどういう写真が適切かというと、ホッキョクグマの代わりに人間が写っている以下のような写真が、より「気候変動について考えさせることのできる写真」だそうです。
by Roxanne Desgagnés
コーナー氏はこういった気候変動と一緒に使用される写真が、人々が気候変動を軽視しがちな理由の大部分を占める可能性を指摘しています。気候変動の原因として挙げられる「プラスチック汚染」や「森林破壊」などは、明確に可視化するのが難しいものです。二酸化炭素やメタンといった地球温暖化の原因となっているガスも、そもそもが無色透明なため、インパクトが少なくどうしても視覚的に利用しづらいものです。
そのため、1990年代に記者や政治家たちは状況を明確に伝えるための手段として、「モクモクと煙を出す発電所」のようなわかりやすい写真を使用して気候変動について訴えてきました。それにより、世間は気候変動によりどういったことが起きているのかを理解しやすくなりましたが、今となっては逆に「差し迫った実態が届かない」ということにつながっているとコーナー氏は主張しているわけです。
サンゴの減少について報じる場合は、美しいサンゴだけを写した写真ではなく……
by Milos Prelevic
研究者の姿が一緒に写ったものの方が、より気候変動がサンゴに影響を及ぼしていると印象付けられるというわけ。
by Amy Humphries
加えて、コーナー氏は気候変動に関する報道などで用いられる写真を、これまで使われてきたものから変更すべき理由として、「伝統的なイメージの写真がそれほど魅力的ではないから」と語っています。実際、コーナー氏は従来の「孤独にたたずむホッキョクグマ」や「荒野にたたずむ太陽光パネル」といった写真が、読者側にどのような影響を及ぼしているかについて調査しています。
コーナー氏らの調査チームはイギリス・ロンドンとドイツ・ベルリンの2か所で3000人を超える人々を対象にオンライン調査を実施しました。その結果、従来の気候変動に関する記事などで使用されてきた「荒野にたたずむ太陽光パネル」のような写真は、読者側に大きなインパクトを与えないことが判明しています。
by American Public Power Association
対して、読者により大きなインパクトを与えることに成功したのが、「太陽光パネルを設置する人の写真」のような、人が一緒に写った写真だったそうです。
by 10 10
さらに、例えば「廃棄の多い大規模な食肉生産」について指摘したい場合、個々人の取る行動を強調するような写真は読者側の防衛的な反応を引き起こすことにつながり不適切であることが明らかに。
by Sander Dalhuisen
逆に、「廃棄の多い大規模な食肉生産」をより大局的な視点からイメージできるような以下のような写真はより効果的であることがわかっています。
また、写真が読者にとって親しみのあるものを示す場合、気候変動についてより感情的に訴えかけることができることが調査により判明しました。例えば、ベルリン出身の人に対しては森林破壊についてより興味関心を抱いてもらいたい場合、ベルリンにある森林の写真を見せることがより効果的であるというわけです。加えて、読者は「やらせ的な写真」や「政治家の写真」に対しても良い印象を受けないとのことです。
コーナー氏らの研究は目新しいものではなく、過去にもNGOや政府が気候変動を視覚的に表現する方法を分析した論文や、さまざまな種類の写真を使用した場合に読者が受ける印書について調査した論文がありました。
なお、コーナー氏は「私たちが話す必要があるのは、20年前にホッキョクグマが気候変動のアイコンになった当時の環境についてではありません」と語っており、今に即した写真を選ぶ必要性を説いています。
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