2003年、中国の研究者が「自慰行為を1週間行わないことで、男性ホルモンのテストステロンが45.7%増加した」という研究を発表しました。この研究は海外掲示板のRedditで話題となり、2011年6月にアレクサンダー・ローデス氏によって、自慰行為の禁止とポルノコンテンツの廃止を訴える団体「NoFap」が立ち上げられました。NoFapは、自慰行為をやめることで性生活の改善、精子の質向上、感度向上、自尊心、幸福感が得られると述べています。
NoFapの主張は妥当かというとそうとは限りません。2003年の研究では「自慰行為を1週間やめるとテストステロンが増加した」という部分が注目されていますが……
8日目になるとなぜかテストステロンの量がぐっと減ってしまい、元の量に戻っているということも分かっています。
実は、別の研究では、自慰行為を行っている人と禁欲生活を送っている人とで、体内のテストステロンの分泌量にほとんど違いがないことが分かっています。そもそも、テストステロンの量は食事や運動によって左右されるため、自慰行為だけがテストステロンの量が変化するわけではありません。
また、男性の場合、自慰行為をやめることで早漏が改善されるという説もささやかれていますが、それも実証されていないそうです。それどころか、ある研究では、3週間自慰行為を行う前と後で、射精に至るまでの時間に変化がなかったことが報告されているとのこと。
精子の質向上については、より頻繁に射精を行った人の方が、より長生きで移動距離の長い精子を有していることがわかっています。
精子が長生きということは、受精する確率も高くなるというわけです。
自慰行為を一定期間やめると、睡眠中にオーガズムを覚える「夢精」と呼ばれる現象が起こります。夢精は、本来は古い精液を外に出そうという生理現象ですが、男性だけではなく女性にも起こり、83%の男性と37%の女性が一度は体験したことがあるといわれています。しかし、なぜ寝ている時にオーガズムを感じるのかという生理的メカニズムについては、研究が進んでおらず、あまり分かっていません。大人になると、古い精液は分解されて体内に再吸収されるようになるため、夢精も起こりにくくなります。
このように、自慰行為そのものには健康への害はほとんどありませんが、「自慰中毒」は存在します。自慰を行うと、脳内でドーパミンやセロトニンといった、報酬系を刺激する神経伝達物質が放出されます。自慰行為の頻度が高くなりすぎると、ドーパミンやセロトニンに対する脳の反応閾値(いきち)が高くなり、ちょっとやそっとのことでは幸福感や満足感を覚えられなくなってしまいます。
自慰中毒になってしまった場合は、しばらく自慰行為をやめることで、脳を以前のように敏感にすることができます。
また、自慰行為は、睡眠を改善できるといわれています。より質の高い睡眠はよりよい健康を促し、免疫を向上させます。
また、自慰行為は前立腺がんの予防にもなるといわれています。これら自慰行為に関する研究は主に男性の経験に基づくものが多く、まだ発展途上ですが、女性にとっても有益な結果を示すと期待できます。
自慰行為は純粋に健康的な活動であり、やめなければいけない行為ではありません。それでも、個人的な理由で自慰行為をやめたいという人に対しては、AsapSCIENCEはただ一言「頑張れ」とコメントしています。