赤ちゃんの健康リスクは父親が高齢だったりストレスを受けていたりすると高まるという研究結果
by Jerry Lai
45歳以上の父親から生まれた新生児は、若い父親から生まれた新生児よりも医療リスクが高いという研究結果が発表されています。また、父親が体に影響が出るほど強いストレスを感じると、新生児にもその影響が認められるという発表もされていて、父親の年齢や後天的に得たストレス反応が子どもにも大きな影響を与えることが判明しました。
Association of paternal age with perinatal outcomes between 2007 and 2016 in the United States: population based cohort study | The BMJ
https://www.bmj.com/content/363/bmj.k4372
Paternal Stress Exposure Alters Sperm MicroRNA Content and Reprograms Offspring HPA Stress Axis Regulation | Journal of Neuroscience
http://www.jneurosci.org/content/33/21/9003.long
Babies born to older fathers 'tend to have more medical issues' | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2018/oct/31/babies-born-to-older-fathers-tend-to-have-more-medical-issues
How Dad's Stresses Get Passed Along to Offspring - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/how-dads-stresses-get-passed-along-to-offspring/
スタンフォード大学の研究者は、2007年から2016年の間に生まれた、4000万人を超える新生児の出生記録とその健康記録を研究。その結果、25~34歳の父親から生まれた新生児と比較して、45歳以上の男性から生まれた新生児は先天的な病気や発作を持っている割合が18%高かったと、研究チームは報告しています。また、女児の場合、父親の年齢が高いほど妊娠糖尿病のリスクが高くなることも判明しました。
論文の上級著者であるマイケル・アイゼンバーグ氏は、家族計画において父親の年齢は無視できない要素であると述べています。また、アメリカでは新生児の父親の年齢が年々高くなっていることに触れ、健康リスクの増加が社会全体に影響を及ぼすかもしれないと警鐘を鳴らしています。
ただし、アイゼンバーグ氏によると、増加したリスクは個人レベルではそれほど大きくないと述べています。「生まれてくる子供の健康上のリスクについて夫婦に説明するとき、私はいつも宝くじに例えて話します。2枚のくじを買ったら勝つ可能性は倍にあがるかもしれないが、実際に勝つことは難しいものです。何かのリスクが10~20%上昇しても、個人レベルで見た場合のリスクはそれほど変化しません」とアイゼンバーグ氏は語っています。
by Jacob Bøtter
なぜ父親の高齢化が新生児の健康リスクを高めるのかについて、研究チームは高齢化による精子内のDNAの損傷が鍵になるかもしれないと推測しています。トロント大学の出産疫学者であるヒラリー・ブラウン氏によると、長年にわたる研究でも、父親と母親の年齢が子どもに与える影響を解明するのは難しいそうで、高齢化によるDNAの損傷はあくまでも1つの可能性に過ぎないと主張しています。また、「父親は年齢が上がると、喫煙や飲酒、肥満、慢性疾患、精神疾患など、健康に悪い行動をとりがちだということが研究で示されています」と、父親の健康リスクの上昇の要因すべてが新生児の健康問題に関連していると述べています。
さらに、別の研究では、精神的・肉体的ストレスを受けた父親の新生児も健康リスクが高まると、メリーランド大学の神経生物学者であるトレイシー・ベール氏がサンディエゴの脳神経学会年次総会で発表しました。ベール氏は、父親の精子から放出された細胞外小胞が、新生児の脳回路の形成にどのような影響を与えているかを研究するために、マウスで実験を行いました。すると、ホワイトノイズを浴びせるなどのストレスを与えたマウスから産まれた個体と、ストレスを与えなかったマウスから産まれた個体で、脳回路の発達に明確な違いが表れたそうです。
近年、さまざまな研究分野でエクソソーム・ベジクル(細胞外小胞)の研究が進んでいます。細胞外小胞とは、細胞が脂質でできた微小なカプセルに分泌した物質を閉じ込めて細胞外へ放出したもの。細胞はこの細胞外小胞によって他の細胞や組織に情報を伝えているといわれています。
ベール氏の研究室に属するジェニファー・チャン氏は、ある群のオスのマウスを交配させ、その子のストレス応答を調査しました。
チャン氏は健康なオスのマウスの精子を2つにわけ、片方をストレスホルモンの影響を受けた細胞外小胞とともに培養し、もう片方をストレスホルモンの影響を受けていない細胞外小胞とともに培養しました。すると、後者の精子由来のマウスは正常に発達したのに対して、前者由来の精子は父親が経験したものと同じ異常なストレス応答を示したとのこと。ベール氏は、細胞外小胞が精子に働きかけることで、父親の後天的な「経験」を子に受け継いでいる可能性があると論じています。
レスブリッジ大学でストレス反応の遺伝を研究しているゲーリンデ・メッツ氏は「細胞外小胞による分子サインは、研究者が子供の健康リスクを非侵襲的に予測できる方法を発見するのに役立つ可能性があり、先駆的なストレステストの基礎となるかもしれません」と述べています。
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