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取材

オリンピックの正式種目化も検討される「eスポーツ」の先進国を目指して日本ではどんな取り組みが行われているのか?


対戦型のコンピューターゲームをスポーツ競技として捉え、スポーツと同じようにプレイヤーが互いのスキルを競い合うのが「eスポーツ」です。2018年のアジア競技大会ではデモンストレーション競技としてeスポーツが採用されて大きな話題を呼び、あのオリンピックでも正式種目化に向けた協議が続けられています。世界的にeスポーツが盛り上がりを見せる中、日本におけるeスポーツ分野を取りまとめる日本eスポーツ連合(JeSU)の浜村弘一副会長がマチ★アソビ vol.21へやってきて講演を行うとのことだったので、日本では一体どのような取り組みが行われているのかを聞いてきました。

eスポーツステージ - マチ★アソビ
http://www.machiasobi.com/events/esports.html

マチ★アソビ vol.21のクライマックスラン初日となる10月6日に開催された、JeSUの浜村弘一副会長による基調講演は、東新町アーケード内の「コルネの泉」で行われました。


最初は浜村副会長のプロフィール紹介から。浜村副会長はゲーム総合誌の「週刊ファミ通」の創刊時から携わっているという人物で、一時は編集長も務めたという経歴を持っています。


基調講演ではeスポーツについてあまり知らない老若男女に向け、世界のeスポーツ情勢や、日本のeスポーツについてわかりやすく解説してくれました。


◆世界のeスポーツ事情
世界のeスポーツ市場は現在大きく成長中です。eスポーツの市場規模は2018年は推定16億ドル(約1800億円)とされていますが、2022年までに23億ドル(約2600億円)まで成長するとみられています。拡大しているのは市場規模だけでなく、普段はボクシングの会場として使うような1万人規模の箱を使ったeスポーツの大会なども行われるようになっているそうです。


eスポーツの推定視聴者数は以下の通りで、2021年には5億5700万人がeスポーツを視聴するようになるとみられています。


そんなeスポーツ市場を支えるファンたちのうち、「常連ファン」のシェアを表したのが以下の図。eスポーツは2018年には1億6500万人ほどの常連ファンを抱えていると算出されており、そのうち約半数がアジア太平洋地域のファンであるとされています。日本ではまだまだこれからという印象がありますが、韓国は世界的に見ても「eスポーツ先進国」とされており、中国もeスポーツ人気の伸びはものすごい勢いだそうです。


アジアで特に高い人気を誇るeスポーツですが、もちろんそれ以外の地域でも人気は着実に広がっています。例えば、アメリカ政府はリーグ・オブ・レジェンドの大会をプロスポーツと認定し、外国人選手にはアスリートビザを発行することを発表していたり、「eスポーツ奨学金」を提供する高等教育機関が登場したりと、行政面のサポートが手厚くなってきているそうです。ヨーロッパでは選択授業で「eスポーツ」を選択できる学校が登場したり、eスポーツリーグのESLとヨーク大学が産業研究分野で提携したりと、独自の取り組みを進めています。また、韓国の大学では体育系学部にeスポーツでの選考試験を追加しており、中国企業のテンセントはeスポーツ産業を1000億元(約1兆7000億円)規模にまで拡大するための五カ年計画を発表しています。

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eスポーツで特に目を引くのは大会にかけられた「多額の賞金」です。賞金総額1億円のハースストーン世界選手権や、賞金総額2億元(約33億円)のWorld Cyber Arena、日本でも賞金総額6000万円の「モンストグランプリ2018」が行われました。


さらに、eスポーツの大会としては桁違いに大きな賞金がかけられる予定なのが、Epic Gamesのオンラインバトルロイヤルゲーム「フォートナイト」の公式大会です。この大会では賞金プールに1億ドル(約110億円)を提供することが発表されています。

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◆日本のeスポーツ界での取り組み
世界的に勢いを強めるeスポーツにおいて、日本での取り組みを加速するために生み出されたのがJeSUです。JeSUが設立されたのは2018年1月22日で、活動を開始したのは同年の2月1日からです。設立前、日本にはeスポーツの振興を目的としたJeSPA、e-Sports促進機構、日本eスポーツ連盟という3つの団体が存在したのですが、日本の大手ゲームメーカーのほとんどが会員となっているコンピュータエンターテインメント協会(CESA)が主導、日本オンラインゲーム協会(JOGA)が後援となり、3つのeスポーツ関連団体を1つに統合することに成功し、JeSUが誕生しました。CESAとJOGAが集まれば日本のゲーム関連IPの90%ほどを網羅できるとのことで、業界団体が乱立しがちなeスポーツ界隈において、JeSUは多くの企業をひとまとめにすることに成功した世界でもまれな事例だそうです。それゆえ世界中のeスポーツ団体からの注目度も高いそうです。


そんなJeSUが最初に行ったイベントが、2018年2月に開催された「JAEPO×闘会議 2018」。イベント来場者数は7万2425人、ネット総来場者数は513万1820人ということで、日本のeスポーツ史上最大規模のイベントを開催することに成功しています。この大会でJeSUは初めてプロライセンスの発行を行ったそうで、15人のプロ選手が大会に参加することとなりました。それにより闘会議2018は国内のeスポーツ大会としては珍しい賞金総額2815万円の大会となり、メディア掲載数は合計3230件、これは広告換算額で23.6億円で、いかに国内でも大きな注目を集めることに成功したかがわかります。

その後もJeSUはライセンス発行を精力的に行っており、ライセンス認定タイトルは8つ(ウイニングイレブン2018、コール オブ デューティ ワールドウォーII、ストリートファイターV アーケードエディション、鉄拳7、パズドラ、ぷよぷよ、モンスターストライク、レインボーシックス シージ)、ライセンス発行数はジャパン・eスポーツ・プロライセンスが120名、ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンスが1名、ジャパン・eスポーツ・チームライセンスが8チーム、公認大会数は28大会まで増やすことに成功。公認大会の賞金総額は1億1850万円まで伸びており、これを設立からわずか7、8カ月で達成したというのは驚くべきことです。

これらの施策により、日本国内でのeスポーツの認知度も加速度的に上昇しています。JeSU設立前の2017年9月時点ではeスポーツの認知度はわずか14.4%だったのですが、2018年7月には41.1%にまで上昇。


それと同時にJeSUの会員企業の数も順調に増加しており、記事作成時点では正会員は27社、特別賛助会員は4社、賛助会員は9社となっています。また、2018年8月9日にはJeSUのオフィシャルスポンサーとして、au、サントリー、GALLERIA、ローソン、BEAMS、Indeedの6社が発表されました。全くゲームに関係のない企業もスポンサーに名乗りを上げており、ここからも国内でeスポーツ熱が高まりつつあることが実感できます。


◆eスポーツと国際大会
そして、2018年のアジア競技大会でeスポーツがデモンストレーション競技に採用されたように、今後はより世界に目を向けた活動を行っていく必要があります。

例えば、日本が今後出場することとなるスポーツの国際大会は、アジア競技大会とオリンピックだけでも2年ごとに存在することとなります。2018年のアジア競技大会ではデモンストレーション競技だったeスポーツですが、2022年には正式種目として採用されることが発表されています。また、オリンピックにおいても2024年のパリオリンピックでの「eスポーツ」正式種目化が検討されており、そうなれば世界中のより多くの人々がeスポーツに興味関心を抱くようになることは間違いありません。浜村副会長は2026年に名古屋で開催されるアジア競技大会が、日本のeスポーツ界にとって大きな山場のひとつになるのではとみているそうです。


オリンピックが正式種目化した際、日本人のeスポーツ選手を大会に送るにはJeSUが日本オリンピック委員会(JOC)に加盟する必要があります。JOCの加盟条件としては、「1:当該競技における唯一の国内統括団体」「2:オリンピック競技大会、アジア競技大会、その他の国際競技大会に参加した実績を有していること」「3:国際オリンピック委員会承認の国際競技連盟に加盟していること」という3つが挙げられます。このうちの「1」を満たすために、JeSUは3つの団体を統一する形で誕生したというわけ。


オリンピックでのeスポーツの採用については長らく議論されていますが、最近は「採用するかしないかの議論」ではなく「どのタイトルを採用するかの議論」が行われている、と浜村副会長は関係者から聞いているそうです。なぜ「どのタイトルを採用するかの議論」が行われているのかというと、ゲームの中でも特に人気が高く公式大会なども多く開催されている「シューティングゲーム」は、暴力的な表現が多くオリンピックには適していないと考えられているから。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は過去に、「我々は、非差別、非暴力の中で人々の平和を促進していきたいと考えています。この理念は、暴力や爆発、殺害などが含まれるようなビデオゲームとは一致しないため、明確に一線を引かなければいけません」と語り、暴力的な描写が含まれるゲームはオリンピックの競技としてプレイされるのにふさわしくないとしています。ただし、これはeスポーツがオリンピックにふさわしくないというわけではなく、あくまで暴力的なタイトルがふさわしくないというだけです。

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こういった国際大会で日本人eスポーツ選手が活躍できるよう、JeSUは既に動き始めています。アジア競技大会に出場するには東アジア地区予選を突破しなければいけいないため、JeSUは東アジア地区予選にウイニングイレブン2018で2名、クラッシュ・ロワイヤルで1名、スタークラフトIIで1名、ハースストーンで1名、リーグ・オブ・レジェンドで7名のeスポーツ選手日本代表を派遣。このうちウイニングイレブン2018とハースストーンに出場した3名が本戦出場を決めたため、3人は無事アジア競技大会へ出場します。そして、ウイニングイレブン2018部門で日本代表の杉村選手と相原選手が優勝し金メダルを獲得することに成功しています。2018年のアジア競技大会ではeスポーツはあくまでデモンストレーション競技でしたが、2022年からは正式種目化するため、メダルを獲得すれば正式にその国が獲得したメダルとしてカウントされるようになるので、注目度はさらに高くなるものと思われます。

他にも、2019年の茨城国体でeスポーツの大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」が開催されることが決まっており、日本とサウジアラビアの間でeスポーツマッチを開催することも決まっています。これにはただ大会を行うというのではなく、日の丸を背負って他の国や地域と対戦することで、普段eスポーツに興味を持っていない人にも注目してもらおうという狙いがあるそうです。

また、eスポーツには「年齢や性別による差がない」という特徴があるため、老人が若者を倒したり、小さな女の子が大人をバッタバッタと倒しまくったりすることもあり、そういった爽快さは普通のスポーツではなかなか味わえないポイントなので、そのような爽快さが大会を通じてより多くの人が体感するところとなれば、自然とeスポーツを支持する人の数も増えていくのかもしれません。

◆eスポーツの未来について
日本では野球が生まれた当時は地域に根付いたものだったそうですが、ラジオが普及するとそこからプロ野球が誕生したそうです。そして、テレビが普及しだすとプロ野球は人気コンテンツとしてテレビ中継されるようになり、日本中でプロ野球を目指す若者が増え、その結果野球という競技自体を楽しむ人口および、野球はしないものの中継を見たり観戦したりして楽しむ人口が増加し、プロ野球という興行が活性化していきました。

それと同じサイクルを回すことをeスポーツも目指しています。まず、RPGやシューティングなど、純粋にゲームを楽しむ「1:一般ゲームプレーヤー」がおり、その中から少しプレイに自信のある人やしゃべりが上手い人たちが「ゲーム実況」を行うようになります。そういったゲーム関連コミュニティが盛り上がりをみせるようになると、「コミュニティーイベント」が開催されるようになり、そこから「2:アマチュアゲーム競技プレーヤー」が誕生します。イベントが盛り上がりをみせるようになると、「メーカー主催ファンイベント」が増え、さらに勢いがあれば「賞金付き公式競技イベント」が開かれるようになり、この賞金で生活する「3:プロゲーマー」が誕生。その中でも多くのファンの支持を得る「人気選手の登場」により、「4:ノンゲームプレーヤー、ゲームプレー観戦者」が増加すれば、eスポーツそのものの普及につながることとなるわけです。


JeSUは「eスポーツを通じて、青少年の心身を育成する」「日本におけるeスポーツの普及を目指す」という理念にもとづき、ライセンスを発行して公認のeスポーツタイトルを増やし、同時に公認大会も増やすことで、eスポーツチームや実業団の増加、さらにはスポンサー企業の増加にも成功しています。これにより、eスポーツ選手の収入が増え、安定した環境でトレーニングが行えるようになり、eスポーツ普及のためのサイクルがより潤滑に回るようになるわけです。加えて、アジア競技大会やその他の大会、交流戦などに積極的にeスポーツ選手を送りこむことで、eスポーツ選手の地位向上を目指しており、これらは今のところ2018年のアジア競技大会での実績などから着実に成功しているといえそうです。

JeSUは今後の課題として「eスポーツ練習施設の整備」「学校、専門学校との提携」「コミュニティーとの連携」「クライアントとeスポーツチームのマッチング」「選手のセカンドキャリア支援」などを挙げています。特にeスポーツ選手のセカンドキャリアについては、チームのオーナーになってもらうだとか、指導者側になってもらうなど、さまざまな可能性を模索しているとのことです。


基調講演のあとは簡単な質疑応答が行われました。会場からの「プロ選手をどのように育成するのか?」という質問に対しては、テクニックを教えるのではなく、選手が間違った方向に行かないような指導を行っていると回答しています。具体的には、eラーニングなどの設備を整えてドーピングやSNSの使い方について教えたり、海外での大会に参加する選手に対して現地でどんなことが起こりうるかを講習したりしているそうです。

また、プロスポーツと同じでプロになってeスポーツで稼げるようになる人は一握りであることも明かしつつ、eスポーツは競技タイトルが多いので、タイトル毎にスポンサードしたいという企業や団体はたくさんいること、そしてプロになれなかったとしても大会運営や大会放送などを支える仕事があり、プロeスポーツ選手を目指す中にもさまざまなキャリアパスが存在することも明かしています。


さらにその後、飯泉嘉門徳島県知事(左)、JeSUの浜村副会長(真ん中)、徳島出身のプロeスポーツ選手であるたぬかな選手(右)によるトークショーもスタート。


たぬかな選手は徳島県出身のプロeスポーツ選手がもっと増えるように、自身に憧れを抱いてもらえるよう努力を続けていることを明かし、自身が所属する大阪を拠点とする「CYCLOPS athlete gaming」のように、徳島を拠点とするeスポーツチームが誕生することを密かに期待している、と明かしてくれました。

飯泉県知事は徳島がeスポーツの聖地になることを期待しているようで、「徳島県がマチ★アソビのおかげでゲームと親和性の高いアニメの聖地になっていること」そして「徳島県は光ファイバーの普及率が高く、ネット環境を必要とする対戦ゲームをプレイするにはピッタリな土地であること」を挙げ、徳島県がeスポーツの聖地となることを期待していました。

最後は徳島県のeスポーツ振興を祈願し、会場に集まった全員で「徳島eスポーツおー!」のかけ声をあげ、イベントは無事終了しました。

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in 取材,   ゲーム, Posted by logu_ii