脳活動をモニターして「熟練したスキルを持っているかどうか」を判別する技術が開発される

外科手術などの高度に熟練した技能を要する現場では、特定の人物を評価する時に「この人物はどの程度の技能を持っているか」を測定する必要があります。従来は主観的な評価に頼ってきた技能の評価を、光学的な脳活動モニタリングによって判別する技術が研究者によって開発されました。

Assessing bimanual motor skills with optical neuroimaging | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/4/10/eaat3807

Brain Scans Can Detect Who Has Better Skills - WSJ
https://www.wsj.com/articles/brain-scans-can-detect-who-has-better-skills-1538589600

研究者らは特別な技能を持った人物を特定するために、脳スキャン技術を利用して脳内の状況を観察し、スキル評価に関する新たな洞察を得ようと試みています。レンセラー工科大学やハーバード大学医学部の共同研究チームは、外科医が外科手術シミュレーションを行っている最中に脳スキャンを行い、データを分析することで「初心者の外科医」と「熟練した外科医」を判別する方法を開発しました。

スキルを測るために有用な脳の部位は、運動の計画・実行を司る一次運動野と補足運動野、そして複雑な認知行動の計画などに関わる前頭前皮質の3つ。研究チームによると、外科手術シミュレーション中の脳内活動は熟練した外科医においては一次運動野および補足運動野の働きが活発になる一方で、初心者の外科医では前頭前皮質の働きが活発になるとのこと。

研究では30人の熟練した外科医と研修医の脳を、外科医のスキルを認定するタスクである外科手術シミュレーションを行っている最中にスキャンし、モニタリングしました。研究チームは「脳モニターによるスキル判定は早期テストの段階である」としながらも、脳を分析したデータによる外科手術スキルの評価は、従来の主観によるスキル評価よりも正確であると述べています。

今回開発された脳スキャンによるスキル評価方法は、神経学的データを分析することで専門スキルのレベルを評価するシステム開発への第一歩であるとのこと。手の運動や目の動きに関連する医師・航空機パイロット・アスリート・といった専門職の育成において、脳のデータを利用することが将来的に実現されるかもしれません。

客観的なデータで外科医の習熟度を判別することにより、外科医を訓練するシステムをさらに効率的なものにできる可能性があります。研究チームはさらに実用に即した設定で評価システムをテストし、手の運動に関するスキル以外の専門スキルを評価できるように改良していきたいと述べました。新しいシステムが実用化されれば専門スキルの評価に大きく役立つ一方で、神経学者の中には、スキル評価の際に脳スキャンを行うことを強制されることを心配する人もいます。

by Docteur Spitalier Philippe

近年の技術発達により、人間の脳活動をスキャンする装置が小型化され、巨大なモニターの前でじっとしていなくても、脳の状態がスキャンできるようになりました。これにより、研究者らは日常の動作や動きの中で、どのように脳が活動しているのかを調べることが可能です。

研究チームは安全で簡易な脳活動計測手法である近赤外脳機能計測法(fNIRS)という、頭蓋骨に近赤外光を照射するキャップを着用して光の反射を用いる手法を使って脳活動を計測しました。fNIRSではキャップが検出した光によって、該当部位に流れる血液に酸素が豊富に含まれているかどうかがわかるため、酸素が豊富に送り込まれている部位が活性化していることがわかるとのこと。

光学的な脳スキャン技術は近年になって、脳インターフェースに魅力を感じているシリコンバレーの投資家によって大量の資金が投下されたため、大きく進展しているそうです。脳のデータを取得することには倫理的な問題がつきまとっていますが、信頼性の低いデータにもとづく差別を防ぐためにも、さらに多くの研究が必要とされています。