巨匠スタンリー・キューブリック監督の名作ホラー映画「シャイニング」に込められたメッセージとは?
スティーヴン・キング氏の同名小説をスタンリー・キューブリック監督が映画化した「シャイニング」は、冬期は閉鎖されるホテルの管理人をすることになった男が狂気にとりつかれ、妻と息子を惨殺しようとするというホラー映画です。そんなシャイニングに込められたメッセージについて解説したムービーが、YouTubeで公開されています。
The Shining: Ending Explained
シャイニングといえばこの狂気に満ちたジャックの顔が印象的ですが……
ジャックから妻のウェンディと息子のダニーが逃げ出した後、映画のラストでも印象的なカットが入ります。
舞台となるオーバールック・ホテルの壁に飾られた1921年の写真の中に、笑顔で映るジャックらしき人間がいるのです。年代的にジャックではあり得ないこの人物が、映画にとってどういう意味を持っているのかはシャイニングを理解するために重要な要素となります。
シャイニングに通底しているのは、「暴力の歴史と連鎖」というテーマです。
ジャックは最終的に屋外で凍り付きますが……
写真のカットが最後に挿入されることで、「映画内の時間である1980年ごろのジャックが、1921年の写真に写った人物が復活した存在であるならば、凍り付いても再び再生するのではないか?」という想像を観客に与えます。
ジャックの復活はすなわち、暴力によって血が流れることを意味しています。
映画の中でも、ジャックは「生まれ変わった存在」として描かれているシーンがあるとのこと。
「まるで俺は前にもここにいたような気がする。バカげているが、『デジャヴュ』を感じるときがある」とジャックが話すシーンや……
幽霊のバーテンダーであるロイドと会話をするシーンで、ジャックが「俺はずっとロイドが好きだよ」と話すシーンなどがそうです。
ジャックはシャイニングの中で、唯一生まれ変わった存在というわけではなく……
ホテルのウエイターであるグレイディもそうです。
グレイディはジャックに対し「あなたはずっとここの支配人でしたよ」と告げ、ジャックが自らを生まれ変わった存在だと認識するのを助ける役割を果たします。
ホテルの中では現在と過去が入り交じったような光景が描かれ……
暴力的な過去の歴史からは逃れられない雰囲気を醸し出します。
1921年の写真に写るジャックは……
すでに歴史の一つとなっているのです。
シャイニングの大きなテーマとなっているのが、「暴力の連鎖の巨大な力から逃れられない」という点です。
一家がホテルへ向かう最中、ウェンディが口にした「ドナー隊」の話も裏に流れるテーマを暗示するもの。
雪に閉ざされて食糧不足に陥った開拓民が人肉食に走ったというこの事件は……
環境的孤立が残虐性を生み出すということを示唆しています。
また、オーバールック・ホテルが建てられたのはネイティブ・アメリカンから奪われた土地であり……
はるか昔に先住民と開拓民であるアメリカ人の間で起きた虐殺をも、物語に流れる暴力の連鎖と無関係ではないのです。
ジャックはネイティブ・アメリカンへの嫌悪感を持っており、ネイティブ・アメリカンの絵画にボールをぶつけるなどしています。
また、息子のダニーや……
妻のウェンディが身につけている赤や青を使用した服が意味するのは、アメリカ合衆国旗です。
物語の端々にも、アメリカ合衆国旗が登場しています。
アメリカの歴史そのものが、暴力の歴史を背後に持っているのです。
暴力の連鎖に飲まれたジャックですが、ウェンディとダニーを殺すことには失敗します。
しかし、最後の写真により、「まだ暴力の連鎖は終わっていない。ジャックはまた蘇るのではないか」と思わされます。
また、舞台となるホテルは迷宮のようであり……
ミノタウロスの伝説に登場する巨大な迷宮を連想させます。王は迷宮の中にいけにえを捧げ続けましたが……
シャイニングでは、伝説でミノタウロスを倒したテーセウスのようにダニーは迷宮からの脱出に成功します。これにより、いけにえの連鎖は絶たれたのです。
映画の中ではジャックの精神的な問題が事件の引き金になったように描かれ、登場人物らはホテルの邪悪な意思にほとんど気づきません。
ジャックは大きなストレスを抱えている上に、寂しいホテルで孤独にもむしばまれており……
暴力の連鎖がきっかけになったとはいえ、ジャック自体も邪悪な存在であると映画では強調されています。
ジャックは家族を害そうとする一方……
ウェンディとダニーは道徳的な存在として描かれており、対照的な存在となっています。
また、ジャックのダークサイドとして描かれているのが、アルコール依存です。
ジャックはアルコール依存症であり……
過去にはダニーをケガさせたこともありました。
アルコールはジャックの抑圧を解放し、暴力的な本能に従わせてしまいます。
また、映画のシャイニングはスティーヴン・キング氏の原作小説とは多くの箇所が違っています。
原作ではジャックに同情的な記述が多く、ホテルの邪悪な意思によって凶行に及んでしまいますが……
映画ではむしろジャック自身にある問題が強調されているのです。
また、エンディングにも違いがあります。映画ではジャックが雪に閉ざされた迷路で凍り付いて終わりますが……
小説ではボイラーを爆発させてホテルを炎上させます。
「私とキューブリックには、見解の相違があった」とキング氏は述べており、映画の展開に不満を持っている模様。
映画のシャイニングでは開拓民のころから続く暴力の連鎖という歴史に加え、ジャック自身の暴力的な傾向やアルコール依存といった人間の心の中にある問題にも焦点を当てているのです。
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