映画「ダークナイト」の悪役「ジョーカー」のメイクはどのように生み出されたのか？

アメコミヒーローのバットマンが主人公の映画「ダークナイト」は、全世界の映画ファンから非常に高く評価されています。ダークナイトに登場する敵であるジョーカーは非常に魅力的な敵としても知られており、そんなジョーカーの特徴的なメイクが生み出された背景について解説したムービーがYouTubeで公開されています。

How Heath Ledger's Joker Was Born - IGN on CineFix

ダークナイトは2008年に公開されると、多くの人々にそれまでとは違うスーパーヒーロー映画として大きな衝撃を与えました。

ヒース・レジャー演じるジョーカーも、映画を見た人々に悪役としてこの上なく強烈な印象を残しました。特にそのまがまがしい雰囲気の道化師のメイクは、見る人にジョーカーの邪悪な意思をまざまざと連想させるものです。

ダークナイトのメイクアップアーティストであるジョン・カグローニ・ジュニア氏は、ダークナイトでの功績が認められてアカデミー賞のメイクアップ賞にノミネートされています。

カグローニ氏は1990年の映画「ディック・トレイシー」 でもメイクアップアーティストを務め、見事にアカデミー賞を受賞したベテランメイクアップアーティストです。

そんな人物からしても、ジョーカーのメイクはかなり難しい仕事だったとのこと。

台本を読んで最初に構想したジョーカーのメイクは、どちらかといえばスタイリッシュな雰囲気のものだった様子。

ところが、クリストファー・ノーラン監督との話し合いを進めて考えを練っていくうちに、「サイコパス的な人物であるジョーカーのメイクは、小ぎれいなものではないだろう」という風に方針が変化していったようです。

カグローニ氏はレジャーの顔写真に対し、何パターンものメイクを施してしっくりくるメイクを模索したとのこと。

一般的に「道化師の仮装」と聞いて思い浮かぶのは、シャープなラインで描かれた派手派手しいものですが……

ジョーカーはそういったものとは正反対に、一見すると雑で退廃的な雰囲気のメイクが施されており、カグローニ氏は「ひどいメイクだろう？」と冗談めかして笑いました。

ダークナイトを鑑賞した人は、このジョーカーにも十分慣れているはずですが……

それ以前のジョーカーといえば、1989年に公開された映画「バットマン」でジャック・ニコルソンが演じたもの。

ニコルソンのジョーカーは化学薬品の影響で、いわばアクシデント的にジョーカーと化してしまいましたが……

ダークナイトのジョーカーはその生い立ちから違います。そこで、メイクのアプローチもニコルソンのものとは違ったものにしようとカグローニ氏は考えたとのこと。

カグローニ氏は「ニコルソンのメイクアップは素晴らしいもので、私も大好きです」と述べ、そのイメージから脱却することにはなかなか苦労したとしています。

ジョーカーを演じたレジャーもメイクアップ作業に大きく関わっていたようで、「レジャーと共に仕事できた日々は、私にとっても最高の毎日でした」とカグローニ氏は語りました。

顔のメイクは役者に表情を動かしてもらいながら描くこともあるようで、カグローニ氏はレジャーと共に多くの時間を過ごしたとのこと。

ジョーカーのメイクは、さまざまなものからインスピレーションを得ています。目の縁を隈取るアイブローは……

20世紀初頭の映画俳優が施したメイクから着想を得たそうです。

また、チャップリンの映画に数多く出演したエリック・キャンベルの大げさ過ぎるようなアイブローも……

ジョーカーのアイブローの参考になっているとのこと。

ジョーカーのメイクについてノーラン監督はカグローニ氏に対し、「こうしてくれ」という強い要望を出すことはなかったそうです。その代わり、20世紀を代表する画家であるフランシス・ベーコンの肖像画を見るようにすすめてきたとカグローニ氏は語ります。

カグローニ氏は画集で多くの肖像画を眺め……

湧いてきたインスピレーションを付箋に書き付けたとのこと。

なお、ベーコンの絵画は1989年のバットマンにも登場しており、ゴッサム・シティーの美術館内のシーンで見ることができます。

ジョーカーが素晴らしい敵として人々の印象に残ったのは、もちろんメイクの役割が果たすところも大きかったはず。しかし、カグローニ氏はあくまでもダークナイトの撮影後に上映を待たずこの世を去った、レジャーの演技が素晴らしいと絶賛しました。

「レジャーの演じたジョーカーはとてつもなくクールだ！」とカグローニ氏は褒めたたえています。

映画史に残る魅力的な敵は、監督・メイクアップアーティスト・役者を始めとする多くの関係者が協力して生み出したものなのです。