リチウムイオンバッテリーの発火・爆発を防ぐ新たな電解質を研究者が考案
by Kai Hendry
スマートフォン、スマートウォッチ、ノートPC、デジタルカメラなど、いろいろなところで使われているリチウムイオンバッテリーは、長寿命・高電圧・高速充電や継ぎ足し充電が可能など多くのメリットがある一方で、過充電や熱暴走によって爆発事故を起こす危険性があり、数々の改良策が練られています。オークリッジ国立研究所のガブリエル・ヴェイス博士が新たに考案したのは「ダイラタンシー」を活用する方法です。
New electrolyte recipe keeps lithium-ion batteries from catching fire | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2018/08/new-electrolyte-recipe-keeps-lithium-ion-batteries-from-catching-fire/
These lithium-ion batteries can’t catch fire because they harden on impact - YouTube
この研究内容はボストンで開催されたアメリカ化学会の国内会議で発表されました。
ヴェイス博士によると、作り方はリチウムイオンバッテリーに使用される液体電解質の中に球状のシリカナノ粒子を混ぜて懸濁液にするだけ。
発想のもとになったのは、コーンスターチや片栗粉と水を1:1の割合で混ぜて作る「ウーブレック(oobleck)」という懸濁液。以下のムービーは、ウーブレックの作り方を示したもので、どういった性質があるのかがよくわかります。
DIY Magic Oobleck Slime - YouTube
ウーブレックが完成するのは1分27秒。スプーンでボウル一杯のウーブレックをぺちぺちと叩くと、まるでゼリーかプリンのように表面が波打ちます。
ゆっくりとウーブレックの中に差し込まれていくスプーン。固体ではないのでヒビは入っておらず、スプーンを抜くと穴は元通りに塞がります。
今度は女性の手が出てきて、ウーブレックの表面を突き始めました。指先がちょっと沈み込むものの、押し返されているような感じ。
しかし、これもまたゆっくりと指先を押し込むようにすると、今度は押し返されることなくズブズブと沈んでいきます。
指でウーブレックをすくい取り、手の中でこねるように動かすと、液状だったはずのウーブレックがまるで粘土のように固まりました。強く力を入れたときには、ヒビが入っています。
指の力を弱めると、また液状に戻っていきました。
このウーブレックが見せた性質は「ダイラタンシー」と呼ばれます。
リチウムイオンバッテリーが発火・爆発するのは、強い衝撃を受けたり、過充電や熱暴走によって発熱した際に電極の正極と負極が直接つながってショートすることによるものです。ヴェイス博士は、この「弱い衝撃の時は液状のままだが、強い衝撃を受けると固化する」というダイラタンシーの特性を生かし、2つの電極を守ることを考えつきました。
ヴェイス博士の作った新たな電解質を使った場合、「容量低下」「充電速度の低下」という2点を除けば現行のリチウムイオンバッテリーに匹敵するものが作れるとのこと。また、製造においても工程の一部を変更するだけで済むというメリットがあります。ただし、使用するナノ粒子はすべて同じ直径200nmに揃えないと、衝撃を受けたときに固化するどころか粘性が落ちてしまうとのことです。
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